ふでモグラの気ままな日常

読書をこよなく好む早期退職した元公務員が、読んだ本の紹介を中心に、日頃気づいたことや感じたことなどについて、気ままにひとりごとを発信する雑記ブログ

【読書】『きみはいい子』中脇初枝 著

ポプラ社(2012)



【あらすじ&ひとりごと】

 

 中脇初枝さんの作品は以前、戦時中の満州で出会った3人の少女の人生を描いた『世界の果てのこどもたち』を読んで、とても感動したことを覚えています。

 それよりも前に書かれた『きみはいい子』。

 

 本書は虐待がテーマになっていて、虐待を受ける子どもや高齢者とその家族が描かれ、その家庭に関わる教師や大人たちが悩みながらも思いやりの手を差し伸べ、一筋の光を与えてくれる短編集。

 

 一話一話のストーリーは独立したものですが、ひとつのまちが舞台となっていて、人と人が繋がっていきます。

 どの短編も心が苦しくなるけど、最後は希望へと変わっていくことに救われ、目頭が熱くなる作品です。

 

 先日もネグレクトで亡くなった5歳児の母親に対する判決が出ました。

 そんな事件がまだまだ絶えることがない。今こうしているときもどこかで子どもたちへの虐待が行われているのかもしれません。

 

 私は子どもをもったことがないから、子をもつ親の悩みすべてをわかっていないと思うし、子どもの思いも理解していないかもしれない。

 でも、子どもたちに悪い子は決していないという姿勢は強くもっています。

 ただただ、子どもたちは親や大人たちの愛情がほしいだけなのだから。

 

 とても胸が苦しくなったけど、中脇さんの綴るラストはどの短編も見えてきた光を深追いせずに、読み終えたあとの気持ちは軽くなっています。

 

 戦慄の走る物語ではあったけど、ほんの少しの思いやりや優しさによって、子どもたちの心、そして大人たちの心にも確かな希望が灯るのだと強く思いました。

 

 子どもたちがいつの時代も安心して、幸せに暮らせる世の中になってほしいものです。

【読書】グリム童話集『奇妙な楽人』『十二人兄弟』

岩波文庫(1979)

『完訳グリム童話集(一)金田鬼一訳』その6

『奇妙な楽人』〈KHM8〉

【あらすじ&ひとりごと】

 昔あるところに奇妙な音楽家がいました。

 一人で森の中を通り抜けながら考え事をしていましたが、考える種もなくなりバイオリンを弾き始めると、狼がやってきます。

 狼は「バイオリンを習いたい」と言い、音楽家は「わたしの言いつけは何でもやりなさい」と言う。

 狼は音楽家についていきますが、しばらく歩くと、柏の老木があり、その空洞の裂け目に両前足を突っ込むよう音楽家は命じます。

 そのとおりにした狼の足を音楽家は石で押さえつけてしまい、帰ってくるまで待っているよう言い残し行ってしまいます。

 

 そして、また退屈する音楽家はバイオリンを弾きます。

 すると、今度は狐がやってきました。狐もバイオリンを習いたいと言い、音楽家の言いつけに従います。

 音楽家についていった狐は、ハシバミの木に吊るされ、音楽家は行ってしまいました。

 

 また音楽家は退屈しバイオリンを弾くと、今度は兎がやってきます。

 同じように兎もバイオリンを習いたいと言い、音楽家の言いつけに従います。

 兎は首にひもをつけて、ヤマナラシの木のまわりを20回ぐるぐる回り、ひもが木の幹に巻きついて自由がきかなくなりました。

 音楽家はまた兎も置き去りにしました。

 

 その間に狼は、やっとのことで木から前足を引っ張り出し、怒り狂って音楽家を追います。

 途中で狐と兎を助けてやり、全員で仕返しをしようと後を追います。

 

 またまた音楽家は、途中でバイオリンを弾くと、今度はきこりがやってきます。

 音楽家は初めて人間がやってきたことに喜び、楽器を上手におもしろく弾くと、きこりは魔術でもかけられたようにうっとりします。

 そのとき、狼と狐、兎が仕返しにやってきますが、きこりがオノを音楽家の前に立てると、狼たちは怖くなり森の中へ逃げ帰ってしまいました。

 音楽家はお礼にもう一曲聞かせ、また旅を続けました。(要約)

 

 この内容だけではまさしく動物虐待ですね。

 でも、文末の注釈にあったのですが、この物語は完全版として伝えられていないようです。音楽の力で感動させるほどの名人が、動物を騙し懲らしめるなんて。その理由が元の話には語られていたとされています。(説話学者)

 安心しました。

 

『十二人兄弟』〈KHM9〉

【あらすじ&ひとりごと】

 昔、王様とお妃がいて、ふたりには子どもが十二人、男の子ばかりでした。

 ある日、王様はお妃に、

 「13番目の子がもしも女の子だったら、12人の息子たちを死なせて、この王国がその子一人のものになるようにしよう。」と言い、棺を12、錠をかけた部屋に持ち込みました。

 

 お妃は、一日中悲しんでいたので、一番下の子のベンジャミンが、声をかけます。

 お妃は、はじめは話しませんでしたが、うるさく言うので12の棺をベンジャミンに見せ、これがのお前たち兄弟の棺であると話します。そして、女の子が産まれると、みんな殺されてしまうことを話します。

 

 ベンジャミンは、自分たち兄弟はどこかへ行って何とかすると言います。

 するとお妃は、兄弟で森へ入り、木の上からお城を見張り、男の子が産まれたら白い旗、女の子が産まれたら赤い旗を出すことを話します。

 それから子どもたちはお城を出て、森へと入りました。

 

 一人ずつ交代で見張りをしながら、11日がたち、順番がベンジャミンに回ってきたとき、赤い旗が出ているのが見えました。

 兄たちは、これを聞くと腹を立て、女の子を見つけしだい、そいつの血を流してやると話しました。

 

 それから、森の真ん中に魔法のかかっている小さな空き家を一軒見つけました。

 12人はここに住むことにし、ベンジャミンは留守番し家事を、兄たちは狩りに行きます。こうして10年という年月が過ぎました。

 

 一方、あの日生まれたお姫様は、気立てが良く美しい方で額に黄金の星が一つありました。

 あるとき洗濯をするとき、男物の下着が12枚あることに気が付きます。

 母に聞くと、12人の兄たちの存在を知らされます。

 

 それからお姫様は兄たちを捜すため森へ入り、魔法のかかっている小さな家に着きます。

 中へ入ると男の子が一人います。お姫様は兄たちを捜していると12枚の下着を見せると、ベンジャミンはこの女の子が自分の妹だと気付き喜び合います。

 しかし、女の子に出会ったら見つけ次第に殺してやるという約束があるため、お姫様を家の中の樽の下に隠すことにしました。

 

 夜になり、兄たちが狩りから帰ってきて、ご飯を食べているとき、ベンジャミンは女の子を殺すのをやめるよう兄たちに約束させ、妹を樽の下から出します。

 すると兄様たちは喜び、それから妹との生活が始まりました。

 

 あるとき、この魔法の家には小さな庭があり、百合のような草花が12本生えていました。

 お姫様は兄たちにあげたくて、その花を12本とも折ります。

 するとその花を折ったとたんに、兄たちは12羽の鴉にばけて、どこかへ飛んで行ってしまい、その家も消えてしまいました。

 

 お姫様は独りぼっちになってしまい、あたりを見回すとおばあさんが立っています。

 おばあさんは、あの12本の白い花をなぜあのままにしておかなかったのか。あれは兄たちだったと言う。

 お姫様は兄たちを救い出す方法を聞くと、七年間、口をきいてはいけないし、笑ってもいけないとおばあさんから言われます。

 もしたった一言でも口を聞いたら水の泡になるばかりか、兄たちは殺されてしまうという。

 お姫様は決心し、高い木の枝に腰かけて口も聞かず、笑いもしませんでした。

 

 ある日、この森で狩りをするどこかの王様が木の上にいる美しいお姫様を見つけ、自分の連れ合いになる気はないかと声をかけました。

 王女は返事をしませんでしたが、少しうなずきました。

 王様はお姫様を連れ帰り、婚礼の式をあげますが、花嫁は口をきかず、笑いもしません。

 王様とお妃は楽しく暮らしましたが、王様の母親は腹黒い女で、お妃は身分のいやしいこじき娘で、笑わないなんて心のやましい人間だと言いふらし、王様はとうとう言い負かされ、お妃を死刑にすることになります。

 

 お妃が柱に縛り付けられ、火が包みだしたとき、ちょうど7年の年月が過ぎました。

 そうすると、12羽の鴉が飛んできて、地面に降り立ち、お妃の12人の兄たちになっていました。

 兄たちは火を消し、妹の体を自由にして抱き合いました。

 それからお妃は今まで口を聞かなく、笑わなかった訳を王様に話し、お妃に何の罪もないことを知って喜びました。

 それからはみんな一緒で、死ぬまで仲良く暮らしました。(要約)

 

 王様は息子たちを生贄にしてまでも女の子がほしかったのでしょうか。感情的には、また男の子(女の子)だとがっかりしながらも、新たな命の誕生に喜びを感じるのが普通ですけどね。

 ひとつ気になるのが、母親には息子に対する愛情が記述されていますが、父親には一切ないこと。やはり母の愛は強いのですね。

 

 

【読書】『聖なる怠け者の冒険』森見登美彦 著

朝日文庫(2016)


【あらすじ&ひとりごと】

 

 森見登美彦さんの作品は初読みです。

 ファンタジー作家さんであることだけは知っていました。読後に本書について調べてみたら、各作品に繋がりあって、本作品を読む前に『有頂天家族』『夜は短し歩けよ乙女』を読んでいたほうがさらに楽しめたようです。

 

 でも、とても独特なワールドでした。なかなか馴染むのに時間がかかりましたが、少しずつ免疫がつき始めると楽しくなってきました。

 

 主人公・社会人2年目の小和田君は、仕事が終われば独身寮での夜更かしを楽しみ、休日は「グウタラ」に過ごす怠け者。

 ある日、狸のお面をかぶった「ぽんぽこ仮面」との出会いから、京都祇園祭宵山を舞台にした長い土曜日一日の冒険が始まる。

 

 主人公を取り巻く面々が何とも個性的で楽しい。グウタラを求め、それをやめさせようとする人たちに起こる、とりとめのないファンタジーをまじめな調子で作者が語るところが笑いを誘う。

 そして、ぽんぽこ仮面の正体がわかったとき、もう森見さんの世界にはまっています。

 

 毎日一生懸命働いたあとの週末くらい怠け者になってもいいですよね。

 頭の中を空っぽにする時間も大切ですから。この小説を読みながら私自身頭の中が空っぽになってスッキリした時間でした。

 

 小和田君の名セリフ「僕は人間である前に怠け者です」

 私も賛成です。

 

 

【読書】『ピエタ』大島真寿美 著

ポプラ社(2011)


【あらすじ&ひとりごと】

 

 大島真寿美さんの『ピエタ』。

 18世紀絢爛の水の都ヴェネツィアを舞台にした、とても美しい作品でした。

 

 『ピエタ』というタイトルからは、ミケランジェロの彫刻像を私は最初に思い出す。

 イタリア語で「哀れみ、慈悲」。

 ページを開くと、それが孤児を養育する「ピエタ慈善院」であることに気付きます。

 

 物語は、ピエタ慈善院で育ったエミーリアという女性の視点で描かれる。

 ピエタで音楽の才能に秀でた女性だけで構成する「合奏・合唱の娘たち」を指導していた『四季』の作曲家であるヴィヴァルディの訃報がエミーリアに届くところから始まっていく。

 

 そして、教え子であるエミーリアは師であるヴィヴァルディの一枚の楽譜を探すため、恩師と関わりのあった人々を訪ね、思いがけない真実へと導かれていく。

 

 これは史実を基に描かれていて、ヴィヴァルディが残した一枚の楽譜の行方を追いつつ、ヴェネツィアに生きる女性たちを描いた静かな美しい物語でした。

 

 中世ヨーロッパの描写がそれほどなかったにもかかわらず、ヴィヴァルディが、そしてヴェネツィアに生きる女性たちがゴンドラに乗り、大切な人に会いにいく。その情景だけでも美しさを感じる。

 

 そして、物語に流れるヴィヴァルディがピエタの「合奏・合唱の娘たち」のために書いたという協奏曲「L'estro Armonico(調和の霊感)」がとても象徴的でした。

 

 翻訳された海外作品を読んでいるような雰囲気で、いつもと違った充足感を味わうことができました。

 

【読書】グリム童話『夜うぐいすとめくらとかげの話』『うまい商売』

『完訳グリム童話集(一)金田鬼一訳』その5

『夜うぐいすとめくらとかげの話』〈KHM6〉

【あらすじ&ひとりごと】

 昔、目玉を一つずつしか持たない「夜うぐいす」と「めくらとかげ」が仲良く暮らしていました。

 ある時、うぐいすは婚礼に呼ばれますが、自分の目が一つしかないことが気になり、とかげに明日返すから一日だけ目を貸してほしいと頼みます。

 とかげは承諾し、自分の目をうぐいすに貸しますが、うぐいすは両側を一度に見られることがうれしくなり、翌日になってもとかげに目を返しません。

 

 そのため、2匹は仲違いし、とかげはうぐいすに、子どもたち、そしてその子どもたち、そのまた子どもたちに仕返しをするから覚えていろと恨みます。

 

 うぐいすは、巣から「ゾーホーホ ゾーホーホ(高いぞ高いぞ)」と鳴き、目は二つあるので、目のない空も飛べないめくらとかげの存在は怖くありません。

 けれども、夜うぐいすが巣をつくる木の下には、決まってめくらとかげの巣があり、卵の中身を空っぽに吸い出してやろうと狙っています。(要約)

 

恩を仇で返すと恨みをかいます。受けた恩は決して忘れてはいけませんね。

 

うまい商売〈KHM7〉

【あらすじ&ひとりごと】

 お百姓が自分の牝牛を七ターレルで売り飛ばしました。

 帰りに池のそばを通り、蛙の「アク、アク、アク(8、8、8)」という鳴き声が聞こえます。

 

 お百姓は「売った代金は七だぞ、八なもんか」と言う。でも蛙たちは「アク、アク、アク」と言うばかりです。

 

 それなら、蛙たちの前で勘定してやろうと、お百姓は七ターレル勘定しました。

 けれども蛙は「アク、アク、アク」と言うばかりです。

 それなら自分で勘定してみろと、お金を池に放り込みます。

 お百姓は蛙が勘定して返してくれるのを待ちますが、蛙たちは「アク、アク、アク」と言うばかりで、お金も返ってこず、日が暮れてきたので帰ることにしました。

 

 それから、お百姓は牝牛を殺して、肉を売れば牝牛2頭分くらいのお金になりそうだと、その肉を持って町へ行くと大きな犬が「ワス、ワス、ワス(少し)」と吠えています。

 この肉が欲しいから吠えているのだと思い、くれてもいいが儲けがなくては困る。その犬の奉公先もよく知ってるから、三日経ったら代金をもらうと言って、お百姓は肉を置いて帰りました。

 

 三日経ち、お百姓は金が入ると楽しみにしていましたが、誰も金を持ってこず、犬の奉公先の肉屋へ行って代金を払ってもらおうとします。

 肉屋はかんかんに怒って、お百姓を店から叩き出しました。

 

 お百姓は訴えるために王様を訪ね、王様とお姫様の前で、蛙と犬どもが、自分のものをとったと、詳しく話しました。

 それを聞いたお姫様がげらげら笑いだし、王様は、お前は正しいとはいえないが、今まで一度も笑ったことがない娘を笑わせたので、礼に私の娘をお前にやる、と言います。

 

 ところがお百姓は、お姫様などいらない。自分にはかかぁが一人いる。ただでさえそれでいっぱいだと答える。

 王様は礼儀知らずと腹を立て、別の褒美を五百だけつかわすから、三日経ったら来るようにと言いました。

 

 お百姓が城から出てると、番兵に褒美を五百もらったと言います。

 すると番兵が分けてくれと言うので、二百くれてやるから三日経ったら、王様のところへ行くようにと話します。

 そして、そこにはユダヤ人も近くにいて、ターレルの銀貨ではしょうがないと、両替をして小銭に取り替えてあげましょうと言う。

 するとお百姓は、お前には三百やるから今すぐ小銭でくれと。三日経ったら、王様のところでもらえるからと話します。ユダヤ人はグロッシェン通貨を3つ渡しました。

 

 三日経って王様のところに行くと、王様は五百をつかわすと言います。

 お百姓は、その五百ならもう自分の分ではない。二百は番兵に分け、三百はユダヤ人が両替してくれたと話します。

 やりとりするうちに、その番兵とユダヤ人が入ってきて、自分たちの分け前をくれと言いました。

 すると、その数だけ殴られ、番兵は慣れていたのでじっとしていましたが、ユダヤ人のほうは、これが約束のターレルの銀貨かと、ひーひーわめきました。

 

 王様はお百姓のしたことがおかしくなって、今までの腹立たしさもなくなり、お百姓に褒美をもらいもしないうちになくしてしまったから、埋め合わせをしてやろうと、城の蔵へ入って、欲しいだけ金を持ち出すがよいと話します。

 

 お百姓はすぐに行って、ポケットの中に入るはだけ金を詰め込み、料理屋へ行って、勘定を始めました。

 そして、王様の文句をブツブツ言いました。この言葉を後からつけてきたユダヤ人が王様に言いつけます。

 王様は怒り出して、ユダヤ人にお百姓を連れてこさせます。

 

 お百姓は行くことにしますが、金をたくさん持っている自分がこんな古い着物を着てはいけないと言い出します。

 そこでユダヤ人は、自分のきれいな着物を貸しました。

 

 王様のところに行くと、王様はユダヤ人から悪口を聞いたとお百姓を叱りました。

 そこでお百姓は、ユダヤ人の言うことは嘘です。自分が着物も借りて着ているとありもしないことを言うと話しました。

 すると、ユダヤ人は、王様の前に出られるよう、貸してやったものではないかと言う。それを聞いた王様は、自分か百姓か、どちらかをユダヤ人が騙したに違いないと言い、ユダヤ人を殴らせました。

 

 お百姓は良い着物を着て、お金をたくさん持ってうちへ帰りました。

 今度こそ、うまくやったとお百姓が言いました。

 

 これは少し翻訳が分かりづらい作品でしたね。

 でも喜劇で楽しむことはできました。

 要領よく人を出し抜いて得をする、欲張りが損をする。なかなか賛成できることではありません。

 誠実に生きていきましょう。

 

 グリムには、ユダヤ人が損な役回りがいくつかあります。これもとても気の毒ですね。

岩波文庫(1979)