ふでモグラの気ままな日常

読書をこよなく好む早期退職した元公務員が、読んだ本の紹介を中心に、日頃気づいたことや感じたことなどについて、気ままにひとりごとを発信する雑記ブログ

【読書】『僕の神さま』芦沢 央 著

角川書店(2020)



 

【あらすじ&ひとりごと】

 

 本作品の帯にある『あなたは後悔するかもしれない。第一話で読むのをやめればよかった、と』という一文。

 芦沢央さんの作品『火のないところに煙は』を思い出し、またどんなホラーなのかと、躊躇わずに手に取りました。

 

 小学生の主人公・佐土原くんの視点から物語がすすむ4遍からなる連作集です。

 小学生の優しさから起きる日常生活での些細なことから、残酷でとても切ない出来事まで、主人公の友人・水谷くんが小学生らしからぬ洞察力、推理力で解決へと導くストーリーです。

 

 読み進める中でなんともモヤっとする複雑な感覚と不穏な気配に、主人公たちが小学生だということを忘れそうになります。

 

 第一話の主人公とその祖父との出来事は、主人公の優しさから招いた、心がキュンとするストーリーでした。

 このストーリーの要として登場する桜の花とアーモンドの花。とても似ているんですよね。

 私も以前、事務室の窓越しにアーモンドが植えられていて、桜の開花よりも少し早く咲いて、アーモンドの実がつき始めるのを見て素敵だなあと思ったことがあります。

 

 このあともそんな短編集が続くのだろうと思っていたら、見事に予想を裏切られ、なかなか面白かったです。


 どの短編も一貫して小学生の主人公「僕」の視点で物語がすすむため、語り口がとても穏やかで、とても読みやすい。


 そして、一話から最終話まで主人公の印象が、少しずつ変化しているように感じます。

 ストーリーのほかに子供が心を変化させる巧みな人物描写も楽しむことができました。

【読書】『夜行』森見登美彦 著

小学館(2016)

 

【あらすじ&ひとりごと】

 森見登美彦さんの『夜行』を読みました。

 森見さんの作品は『聖なる怠け者の冒険』を読んで以来の二冊目です。

 きっとまたあの独特の森見節なる言い回しで、読者の口元を綻ばせるような作品なのだろうと思っていましたが、今作品はがらりと変わり、恒川光太郎さんのホラー系ファンタジーを思い出しました。

 

 京都で学生時代を過ごした仲間が再会し、「鞍馬の火祭」を見物に出掛けることになる。

 それは、10年前にも訪れた際、仲間の一人が突然姿を消したことで、もう一度会えるかもしれないという思いを皆抱き、10年ぶりに鞍馬に集まることになった。

 夜が更けるなか、それぞれが旅先で出会った不思議な体験・現象を語り出す。

 そして、銅版画家・岸田道生が描いた48作にも及ぶ、いかにも妖しい画『夜行』が織り成す怪現象に六人の男女が翻弄されていく。

 

 登場人物がそれぞれ語る奇怪なエピソードは、夢か現実か区別のつかない世界観ですが、なかなかおもしろいものでした。

 

 10年前に突然失踪した一人は、いったいどこに消えたのか。

 意外な展開へと物語は進んでいきます。

 この不思議な世界はいったいどちら側なのか。

 

 読後に混乱する頭を整理していると、やはりこれも森見さんのワールドだなあと思えてきます。

 そんな小説でした。

【読書】グリム童話『野ぢしゃ(ラプンツェル)』

『完訳グリム童話集(一)金田鬼一訳』その8

『野ぢしゃ(ラプンツェル)』〈KHM12〉

 

【あらすじ&ひとりごと】

 昔、あるところに夫婦がいました。

 二人は長い間子供を欲しがっていましたが、やっと望みが叶いました。

 夫婦の家の裏側には、美しい花や野菜がなる立派な畑がありましたが、そこは魔法使いの女のもので、近づくものはいません。

 

 ある日、妻は畑の野ぢしゃ(ラプンツェル)を見て、どうしても食べたくなります。その気持ちが大きくなり、妻はすっかりやせてしまったので、亭主は妻のために野ぢしゃを取ってきてやろうと考えます。

 

 亭主は魔法使いの畑から野ぢしゃを取って来て、妻に食べさせました。妻はおいしくて次の日も食べたくなります。

 

 次の日も亭主は畑に行きますが、目の前に魔法使いの女が立っていました。

 魔法使いは、「ひどい目にあわせてやる」と話すと、亭主は妻が「野ぢしゃを食べなければ死ぬ」と言うと答えると、魔法使いの女は怒りを鎮めて、欲しいだけ野ぢしゃをくれてやるから、妻が子供を産んだら、その子を差し出すようにと話しました。

 亭主は、怖くなって約束してしまいます。

 

 それから妻が子供を産むと、すぐに魔法使いの女が姿を現し、子供にラプンツェル(野ぢしゃ)という名をつけて、連れて行ってしまいました。

 

 その後、ラプンツェルはこの世で一番美しい子供になり、12歳になると、魔法使いの女はラプンツェルを塔に閉じ込めます。

 その塔は森の中にあって、小さな窓が一つあるだけで、はしごもなければ出入りの扉もありません。

 魔法使いの女が中に入る時は、

ラプンツェルラプンツェル、お前の髪をさげておくれ。」

と呼びかけます。

 そうすると、ラプンツェルは黄金色の長い髪の毛をほぐして、下にたらします。髪の毛は12メートルほどあって、魔法使いはそれを登って来るのでした。

 

 それから何年かたち、この国の王子が、塔のそばを通りかかり、ラプンツェルの歌声を聞きます。

 王子は女に会おうと塔に入ろうとしますが、入口はどこにもありません。

 それから王子は、毎日森へ歌を聞きに行きました。

 

 ある日、魔法使いの女がラプンツェルの髪をのぼって塔に入るのを目にします。

 その次の日、暗くなってきた頃に王子は塔のところで、「ラプンツェルラプンツェル、お前の髪をさげておくれ。」と言い、王子は上にのぼって行きます。

 ラプンツェルはびっくりしますが、王子はやさしくラプンツェルの歌に惚れて、ここまで来たことを話しました。

 ラプンツェルは王子に結婚を申し込まれ承諾しました。

 

 そして、ラプンツェルは塔の下へ降りるため、王子がここへ来るたびに絹の紐を一本ずつ持ってきてほしい、それではしごを編んで、はしごができたら下へ降りて、馬に乗せてもらうと話しました。

 

 魔法使いは、このことに気づかなかったのですが、あるときラプンツェルは、魔法使いの女を引っ張り上げるのは、王子よりも重いと話してしまいます。

 魔法使いは怒り、ラプンツェルの長い髪の毛をはさみで切り落としました。それからラプンツェルをどこかの荒れ野に連れ込みました。

 

 ラプンツェルを追い出すと、魔法使いの女は切り落とした髪を塔のてっぺんの窓の鈎へ結びつけます。

 その夜王子が来て、「ラプンツェルラプンツェル、お前の髪をさげておくれ。」と言うと、魔法使いはその髪の毛をぶら下げます。

 王子がのぼると、上にいたのは魔法使いの女で、ラプンツェルにはもう二度と会えないと言われ、王子は悲しくなって、塔から飛び降ります。

 

 命は助かりましたが、からたちのいばらの中に落ち、棘で目をつぶされました。王子は失明して森の中を彷徨います。愛しいラプンツェルを失くし、泣くしかありませんでした。

 

 何年か歩いていたある日。

 ラプンツェルが、自分の産んだ男の子と女の子と一緒に暮らしている荒野へたどり着きました。王子は聞き覚えのある声だったので、その声のする方へ歩いていきます。王子が来ると、ラプンツェルは王子の襟首をつかんで泣きました。

 その涙が2滴、王子の目を濡らすと、目は元通り見えるようになりました。

 王子はラプンツェルを国へ連れて行き、幸せに暮らしました。(要約)

 

 

 魔女は美しいものを束縛したがる欲望がありますね。グリムの他の話でも出てきます。

 あと、ラプンツェルがいつの間に男の子と女の子を産んでいたのでしょう。

 父親については記述がありませんでしたが、他にだれもいないので、王子なのでしょう。グリム童話では、そういった描写はあまりないようです。

 ラプンツェルが、魔女を引き上げるとき、王子よりも重いと言ってしまったことが不幸の始まりでした。余計なことを口にしてはいけません。

 いつもどおりのハッピーエンドでしたが、グリム童話定番の悪者をひどい目にあわせるところがなくて、残念。

岩波文庫(1979)

 

【読書】『戦場のコックたち』深緑野分 著

創元推理文庫(2019)

【あらすじ&ひとりごと】

 

 深緑野分さんの作品を読むのは、『この本を盗む者は』に続いて二冊目です。

 以前、『ベルリンは晴れているか』が気になっていたのですが、大戦終結後の戦争小説ということもあり、手にはしませんでした。

 

 でも、そこにこの『戦場のコックたち』。

 戦争小説とはいっても、コック兵としての視点から描かれるものと期待して読みました。

 でも当然ながら、戦争の残酷さは描かれ、胸が苦しくなって序盤はなかなか読み進められませんでしたが、戦線の中に次々と起こるミステリ、青年兵たちの友情と葛藤が描かれ、とても読み応えのある作品でした。

 

 舞台は第二次世界大戦ヨーロッパ戦線。

 17歳で合衆国陸軍の特技兵(コック)として志願し、ノルマンディ上陸作戦に戦線した主人公・ティムの語りで物語は進みます。

 心優しく、戦場で起きるいくつかの奇妙な出来事に見舞われながらも、そこで出会った仲間たちとともにヨーロッパ戦線を駆けていく。

 

 徐々に戦地の凄惨さが増していく様は、青年兵たちとともに、私も戦争に引きずりこまれていくような心地になりました。

 

 仲間を失うたびに、優しいティムの心が変わっていきますが、周囲の仲間によって大切なことに気付かされます。

 そして、死んだ仲間の遺品を身につけ、仲間と離れた寂しさを感じる様は、戦争が奪うものの大きさと無意味さを改めて感じ苦しくなりました。

 

 終戦後、ティムに宛てられた死んだ仲間からのそっけないたった一文の遺書が明かされます。

 そして、大切に抽斗にしまったその仲間の遺品が消える。

 最後にぐっとくるものがありました。

 

【読書】『さようなら、オレンジ』岩城けい 著

筑摩書房(2013)

【あらすじ&ひとりごと】

 

 岩城けいさんの作品は初読みです。

 大学卒業後、単身渡豪された作家さんです。

 本書は少し前に書かれたものですが、太宰治文学賞などを受賞され、芥川賞候補にもなったとのこと。

 在豪中のご自身のご経験から書かれた作品ではないかと思われます。

 

 アフリカ難民の女性が異国の地で夫に逃げられ、精肉作業場で働きながら2人の子を育て、異郷で強く逞しく新しい生活を切り拓いていく物語です。

 

 オーストラリアに移民し生活する主人公・サリマの生活が描かれ、また「S」という女性が綴る手紙でのふたつの視点から物語は進みます。

 サリマは、母語の読み書きすらままならず、職業訓練学校で英語を学びはじめ、日本人女性「ハリネズミ」と出会うが、ここからふたりの人生が変わっていく。

 

 読み進めるうち、「S」の手紙には「ナキチ」という女性が登場し、これがサリマなのか。

 そして「S」とはハリネズミなのだろうと思い始めますが、最後に意外な事実がわかります。

 

 日本文学において、私が知らないだけかもしれないけど、難民文学はあまり記憶がありません。

 アジアやアフリカの難民問題は、徐々に身近に感じるようになってきたと思いますが、まだまだ日本人にとって縁遠いことかもしれない。

 

 オレンジ色のイメージが生み出す哀しみと温かさ。160頁程度の物語ですが、深い思いが刻まれて、タイトルの思いが印象的でした。

 難民文学のこれからを照らした作品だと思います。