ふでモグラの気ままな日常

読書をこよなく好む早期退職した元公務員が、読んだ本の紹介を中心に、日頃気づいたことや感じたことなどについて、気ままにひとりごとを発信する雑記ブログ

【読書】『自転しながら公転する』山本文緒 著

新潮社(2020)

【あらすじ&ひとりごと】

 とても読みやすい、心に残る作品でした。

 以前からずっと読みたいと思いながらも数年が経ち、やっと手にした一冊。

 この作品は、茨城県牛久市を舞台にアラサーの女性を主人公として、恋愛や仕事、家族との関係に悩む姿が描かれた物語です。

 誰しもがそんな悩みを一つ二つ当たり前のように抱えていることなので、性別や年齢に関係なく、とても共感させられました。

 

 主人公は、親の介護のため東京のアパレル会社を辞め実家に戻り、アウトレットモールの衣料品店で働いている。

 32歳となり、友人が結婚していく中、仕事や恋愛、家族との関係など、自分の将来が不明確な状況に悩みながらも進もうとするひとりの女性の姿が描かれ、心を揺さぶられます。

 

 この約500頁の中に、恋人がいて友人がいて、会社の同僚、そして家族、それぞれが悩みに対する考え方や受け取り方が違うけれど、そこに綴られる言葉が温かく描かれていて、プレッシャーから解放されたような思いでした。

 

 人が生きていく中で、「自転しながら公転する」という言葉の意味が印象的で、とても大切なことだなぁと思います。

 そして最後に、「別にそんなに幸せになろうとしなくていいのよ。幸せにならなきゃって思い詰めると、ちょっとの不幸が許せなくなる。少しくらい不幸でいい。思い通りにはならないものよ」という言葉が、読後に強く心に残りました。

 

 2ヶ月ほど前、山本文緒さんが亡くなられて一年という新聞記事を見て、はじめて他界されていたことを知ったのですが、人と人の間に起きる感情を表現する山本さんの言葉をもう読むことができないのは、とても残念でなりませんね。

【読書】『デス・ネイル』森山東 著

角川文庫(2006)

【あらすじ&ひとりごと】

 森山東さんの日本ホラー小説大賞短編賞『お見世出し』に続く2作目『デス・ネイル』を読みました。

 16年前に刊行された文庫本です。表紙からすでにおぞましい雰囲気ですね。

 本作品は、表題を含む四編からなる短編集です。

 

「デス・ネイル」

ある遺品の力によってカリスマへと上りつめたネイリストが、欲と高慢さによって転落していく。

「幸運を呼ぶ魚」

幸運を呼ぶ魚・アロワナを購入し振り回される父親の悲劇。

「月の川」

同じフロアのマンションに住む美人な人妻の得体の知れない恐怖。

「感光タクシー」

修学旅行に訪れた高校生が、班別行動のためタクシーに乗車するが、そこで悲しい事実が明かされる。

 

 どの短編もシンプルなホラー作品でしたが、十分に気持ちの悪さは感じられる内容でした。

 そして、どれも人間の妬みやあさましさが描かれていることで、不気味さが際立っています。

 ただ、結末の描写が曖昧なところもあって、結果はわかるのだけれど、一体何がどうしてそうなったのかなぁと、理解しにくいところがあります。

 それは読み手の想像するところで、あえてそんな描写なのかなぁ。

 これで森山さんが遺された著作を二冊読むことができました。

 最後の三作目『祇園怪談』が楽しみになりました。

 

 

【読書】グリム童話『白へび』

『完訳グリム童話集(一)金田鬼一訳』その13

『白へび』〈KHM17〉

 

【あらすじ(要約)】

 昔あるところに賢い王様が住んでいました。
 王様には変わった習慣があり、毎日お昼の食後、だれもいなくなると、信頼の厚い召使いが、もう一皿持ってきます。それには蓋がされ、その召使いも何が入っているのか知りません。王様は一人にならないと食べようとはしないからです。


 ある日、召使いは中身が知りたくて皿を自分の部屋に持っていき、蓋をとってみると中には一匹の白ヘビが入っていて、少し切って、口に入れました。
 舌に触った途端、外からひそひそ話が聞こえ、召使いはヘビを食べたせいで、動物たちの言葉がわかるようになりました。


 この日、お妃様の指輪がなくなり、召使いに疑いがかけられました。
 王様は召使いを叱りつけ、犯人の名を言えなければ、おまえが犯人だと脅します。


 そのとき、小川にカモたちがいました。
 召使いは、一羽のカモがお妃様の窓の下にあった指輪を飲んでしまったと聞きます。
 召使いは、料理番にカモの首をちょん切らせ、はらわたを出すとお妃様の指輪が入っていました。


 召使いは、王様に証拠を見せ、宮中で一番名誉のある位につく約束をしましたが、それを断り一頭の馬と旅行のお金をお願いし、旅に出ます。


 ある日、とある池に三匹の魚が罠にかかっていました。
 召使いは三匹の魚をはなしてやると、魚たちは「あなたのことは決して忘れません」と言いました。


 しばらくすると、砂の中でアリの王様が、家来たちを馬が蹄で踏み潰していると言っているのが聞こえました。
 それを聞いて、召使いはわき道へよけてやります。アリの王様は「あなたのことは忘れません」と言いました。


 また道を進み、森の中へ入ると、お父さんカラスとお母さんカラスが、子のカラスたちを巣から放り出しています。
「もうこれ以上、おまえたちに食べさせることはできない」と言い、まだ飛ぶこともできない子カラスは、餓え死じにするしかないと鳴き叫びました。
 これを聞いた召使いは、自分の馬を剣で殺し、子カラスたちの餌にしました。子カラスたちは、「あなたのことは決して忘れません」と言いました。


 そして、召使いは歩くことになります。

 とある大きな町へ一人の男がやってきて、言いました。
「お姫様がお婿様を探しているが、お姫様に求婚するものは、難問を解かねばならない。もし解けなければ命はない」と。


 今までたくさんの人たちがやってみたのですが、命を失うばかりでした。ところが、召使いはお姫様の美しさに目がくらみ、王様にお姫様をいただきたいと申し出ました。


 召使いは海辺に連れられ、目の前で金の指輪が海の中に放り込まれました。王様は指輪を海の底から拾ってくるようにと言い、もしも指輪がなければ、命を落とすまで何度でも突き落とすと言います。


 召使いが考えこんでいると、三匹の魚が泳いできました。いつか助けた魚たちでした。魚は口にくわえていた貝を波打ち際に置きました。その貝には金の指輪が入っていました。
 召使いは喜び、王様へ持って行きましたが、気位の高いお姫様は、召使いが自分と同じ身分の者でないことを蔑み、二番目の問題を注文しました。

 お姫様は庭にキビの一杯入っている袋を十袋も草の中に撒き散らしました。明日の朝までに拾い集めるよう、お姫様は言いました。


 召使いはしょげ返り、夜明けに死刑場へひかれていくのを待っていました。
 ところが、朝には十袋が一つ残らず一杯になっています。それは、いつか助けたアリの王様が、夜のうちに何千という家来をひき連れてきて、キビの粒を拾い集めてくれたのでした。


 お姫様は驚きましたが、高慢な気持ちはまだおさまらず、あの男は二つの問題を解いたが、命の木の実を一つ取ってこないと夫にはなれないと言いました。
 召使いは命の木がどこにあるのか見当もつかないため、とにかく旅に出ます。


 召使いは森の中に入り、木の下で寝ようとしたとき、金の実が一つ落ちてきました。    カラスが舞い下りて言いました。「餓え死にしそうなところを助けてもらった三羽の子カラスです。命の木のある世界の果てまで飛び、取ってきました」と。
 召使いは喜び、お姫様に金の実を持っていくと、もう言い逃れができなくなりました。
 二人はその命の実を二つに分けて一緒に食べると、お姫様の心は、召使いを思う気持ちで一杯になり、二人は幸せに長生きしました。

 

【ひとりごと】

「情けは人の為ならず」が滲み出ている童話ですね。でも「矛盾」も感じます。命の尊さに変わりはないからカモと馬はとても気の毒ですね。

 やはり自然の摂理に従うことが大切でしょう。

 そして、気になるのは王様。「白へび」を食べているのだから、すでに動物たちの声が聞こえるはずだけど、何も触れられていませんね。

 

【読書】『お探し物は図書室まで』青山美智子 著

【あらすじ&ひとりごと】

 はじめて読む青山美智子さんの作品、『お探し物は図書室まで』。

表紙の写真には本のほか、猫やカニ、飛行機などの羊毛フェルトが生きているようで、今にも動き出しそうです。

 そして、帯には、「お探し物は、本ですか?人生ですか?」と書いてあります。

 頁を開く前に物語に流れる温かさに引き込まれそうです。

 

 本作品は、五章から連なる短編集です。

「二十一歳婦人服販売員」

「三十五歳家具メーカー経理部」

「四十歳元雑誌編集者」

「三十歳ニート

「六十五歳定年退職」

 

 それぞれの主人公が図書室を訪れ、自身の生き方に気付いていく物語です。

 その人たちをさりげなく導いてくれるのが、図書館司書の小町さゆりさん。大きくて、頭の上にはお団子にかんざしを挿した白熊のよう。怒っているようだけど声は穏やかで、目を合わせると観音像のような慈悲が感じられる。

 

 そんな小町さんが、迷える人へお探しの本と、さらに素敵な1冊を示してくれます。そして、付録として小町さん手作りの羊毛フェルトも合わせて。

 

 こんな図書室があったら行きたいですね。

 小町さんが、訪れた人たちに話す言葉が心に残ります。見方や考え方を少し変えるだけでも、普段の生活がいい方向へと向かうのだと思わせてくれます。

 

 私も先が不透明なひとり。仕事を早期退職して、今はやりたいことを温めながら、社会に取り残されないよう始めたアルバイトの身。

 思う道があるのなら、自分に言い訳を考える前に、まずは一歩踏み出すことが大切ですね。

 そんな気持ちにさせてくれる本です。とても共感することができました。

ポプラ社(2020)

 

【読書】『傷痕のメッセージ』知念実希人 著

角川書店(2021)

【あらすじ&ひとりごと】

 知念実希人さんの作品は、医療とミステリーの融合。

 エンターテイメント性に富んだ作品は、東野圭吾さんのようで、どれもおもしろくて、リズミカルなテンポでサクサク読み進めることができます。

 そして、ミステリーのなかにもハートフルな展開があり、読者を飽きさせない魅力があります。

 

 主人公の医師・水城千早は、父・穣が「死んだらすぐに遺体を解剖して欲しい」という遺言から、病理医の友人・紫織とともに遺体を解剖することになる。

 父の胃の内壁には、内視鏡によって暗号が刻まれており、紫織と協力しその暗号を読み解こうとする。

 そこには、28年前、穣が追っていた連続殺人事件に関係していることがわかり、そして、当時と酷似した殺人事件が新たに発生する。

 

 複雑さを求めるためか、ストーリー設定に少し無理があったような気もしますが、最後の最後まで、主人公と犯人が対峙しているなかでも、読者に犯人が誰なのかわからないように書かれていて、気持ちが逸りながらも楽しむことができました。

 

 そして、秘められた謎が解け、隠された真実が明かされたときには、涙します。

 親子の絆、友人の絆、本作品もハートフルな内容でした。

 

 知念さんの作品は、ますます進化して、メッセージを受け取るのが楽しみになってきます。