『完訳グリム童話集(二)金田鬼一訳』その39
『まほうをつかう一寸法師〈KHM39〉』
【あらすじ(要約)】
一番めの話
昔、ある靴屋が悪いことをした覚えもないのに貧乏になってしまい、たった一足の靴をこしらえるだけの革のほかには何一つなくなりました。
靴屋は日が暮れてから、その革を裁って明朝仕事にかかるつもりでした。
朝、仕事をしようとすると、靴は出来上がっていて仕事台の上に置いてありました。
おじさんは不思議で開いた口がふさがりません。靴を調べてみると、手ぎれいな仕事で職人が腕を振るったものとして恥ずかしくないものでした。
そこへ買い手が店へ入ってきて、この靴を気に入り、普通の値段より高く買ってくれたので、靴屋はそのお金で靴二足分の革を仕入れることができました。
靴屋は、その革を夜のうちに裁っておいて、明朝仕事にかかるつもりでいました。けれども、起きてみると靴はいつも間にか出来上がっているのです。
それから買い手も二人やってきて、靴四足分の革を仕入れられるだけのお金をくれました。
その次の日も四足の靴は出来上がっていました。
こんなふうだったので、靴屋は世間並の暮らしができるようになり、やがてお金まわりもよくなりました。
ある晩、靴屋は寝る前に「今夜は起きていて、誰が手助けをしてくれているのか見てやろう」とおかみさんと話しました。
真夜中になると、裸の一寸法師二人がやってきて、裁ってある革を小さな指で針を刺して、縫ったりと早業で仕事をすませ、残らず仕上げると二人ともすばやく跳び出していきました。
明朝、おかみさんが「あの小さな人たちが、うちをお金持ちにしてくれたのね。あの人たちは裸で寒いかもしれない。お礼にシャツと上衣、胴衣、ズボンを縫って、靴下を編んであげるから、靴を作ってくださいな」と靴屋に言いました。
真夜中頃、一寸法師たちが跳び込んできて、仕事にかかろうとしましたが、いつもの革はなく、そのかわりにきれいな二組の着物が置いてあるのを見ると、うれしそうな様子をしました。それこそ早業で身支度をすませると、ぴょんぴょこ跳ねたり踊ったりして戸外へ出て行きました。
それきり一寸法師たちは二度とやってきませんでしたが、靴屋は生涯、することなすこと何でもうまくいきました。
二番めの話
昔、不幸せな召使いの女がいました。働き者できれい好きで、毎日家の中を掃いてはゴミを戸外へあけていました。
ある日、いつもの仕事にかかろうとしたとき、ゴミの上に手紙を一通見つけました。字が読めなかったので、ご主人に読んでもらうと、魔法を使う一寸法師たちの招きで、赤ん坊の名付け親になってもらいたいとのことでした。
女中はどうしたらいいか途方に暮れましたが、やっとのことで承知しました。すると、一寸法師が三人やってきて、女中をちびっ子たちが住まっている山の中へ連れ込みました。その住まいは、形が小さいだけで美しいこと、きらびやかなこと。
お産婦さんは黒檀の寝台に寝ていました。ゆりかごは象牙で、たらいは黄金でした。
女中は、名付け親の役をすませて帰ろうとすると、一寸法師たちが三日だけここにいてくれと頼みました。女中は楽しく過ごし、ちびたちも親切にしてくれました。
いよいよ帰ることになり、一寸法師達たちは女中の持っている袋や着物へ金貨をいっぱい詰め込んでやり、山の外へ連れ出しました。
女中は家へ帰ってくると、箒を手に取り掃除をやり出しました。すると、知らない人たちが家から出てきて、おまえは何者だ、ここで何をするつもりだ、と訊ねました。
三日だと思っていたのですが、女中は実は山のほら穴に七年いたので、先のご主人はその間に亡くなっていたのでした。
三番めの話
どこかの母親が、魔法を使う一寸法師どもに、ゆりかごの中の自分の子をさらわれて、そのゆりかごの中は鬼っ子にすり替えられました。
この子は、やたらにものを食べたがったりするので、母親は困り、隣りの女にうまい知恵はないかと聞いてみました。
女は、鬼っ子を台所に連れていき、かまどの上にのせて火をおこし、卵のカラ二つにお湯を沸かしなさい。鬼っ子が笑えば、鬼っ子とは縁切りになる、と言いました。
母親は、隣りの女の言ったとおりにして、卵のカラに水を入れて火にかけると、鬼っ子は、
「おいらの年なら ウェステルワルト(注釈:年をとっていること)とおんなじだ、それでもおいらは卵のカラで湯を沸かすやつなんて見たことない」と言って、笑い出しました。
例の一寸法師がぞろぞろやってきました。連中は本当の子どもをもってきて、かまどの上に置くと、鬼っ子を取り返してどこかへ行ってしまいました。
【ひとりごと】
「小人の靴屋」というタイトルのほうが知られているでしょうか。
一番目めの話は、感謝の気持ちを常に忘れてはいけないという心温まる話ですね。
それに対して、二番め、三番めの話は、怖いです。
浦島太郎のようなお話ですが、なぜ女中が選ばれ招待されたのか、なぜ三日間滞在を頼まれたのか、わかりません。不幸な女中は、三日間だけ楽しく過ごして、お金はもらってもさらに不幸な現実に戻ってしまいましたね。
そして、赤ん坊を鬼の子とすり替えられたお話。一寸法師の悪戯ですね。赤ん坊をかまどの上に置くなんて恐ろしいです。