『完訳グリム童話集(二)金田鬼一訳』その42
『名付け親さん〈KHM42〉』
【あらすじ(要約)】
貧乏な人が子どもをたくさんもっていました。なにしろたくさんいて、世間の人を名付け親に頼んでしまったので、また生まれたときにはもう頼める人がだれ一人いませんでした。
途方に暮れ、寝てしまいました。すると、外に出て最初に会った人を名付け親に頼むといい、という夢をみました。
目が覚め、夢のとおりにしようと外に出てみました。そして、最初に会った人を名付け親に頼みました。
その知らない人は水の入った小さなコップを男にやり「これは不思議な水だ。これで病人を丈夫にできる。ただ、死神がどこに立っているかを見届けないといけない。死神が頭の近くにいたら、病人にこの水をやりなさい。死神が足の近くにいると病人は死ぬ」と言いました。
その時から、男は病人が助かるかどうか言えるようになり、お金儲けをしました。
ある時、男は王子に呼ばれ、死神が頭の近くに立っているのが見えたので、例の水で治しました。二度目も同じことをしました。けれども、三度目には死神が足のほうに立っていたので、王子は死ぬことになりました。
男は名付け親を訪ね、この水の話をするつもりでした。ところが、その家に入ると、中の様子が奇妙でした。
最初の階段では、ちり取りと箒が喧嘩しているのです。男が「名付け親さんはどこですか」と聞いてみると、箒が「もう一つ上」と返事をしました。
二段目にくると、死んだ指がたくさん転がっていました。男が「名付け親さんはどこですか」と聞いてみると、その指の一本が「もう一つ上」と返事をしました。
3段目には、死んだ首が山のように転がっていて、もう一つ上へ行けと教えてくれました。
4段目では、魚が火にかけられ、フライパンの中で揚げ物にされながら「もう一つ上」と言いました。
5段目を上りきると、部屋の前に出たので、鍵穴から覗くと名付け親が見えました。長い角を二本生やしていました。戸を開け入った途端に、名付け親は素早く寝床に入り、布団をかぶりました。
それを見て男が「あなたの家の様子は奇妙ですね。一番下では、ちり取りと箒が喧嘩していましたよ」と言うと、
「あなたは考えの足りない人だ。それは下男と下女が話をしていたのですよ」
「だが、二段目には死んだ指がゴロゴロしていましたよ」
「それは、キバナバラモンジンの根ですよ」
「三段目には死人の首が山になっていましたよ」
「ばかな男だな、それはキャベツだよ」
「四段目には、フライパンに入った魚が揚げ物にされていましたよ」
男がこう言いきると、その魚たちが出てきて、自分を皿に載せました。
「五段目では、戸の鍵穴から覗いたら、名付け親のあなたが見えました。長い長い角を二本生やしていました」
「何を言う。とんでもない」
男は気味が悪くなって逃げました。逃げ出さなかったら、名付け親さんは男をどんな酷い目に会わせたかわかりません。
【ひとりごと】
この「名付け親」というのは悪魔です。死神が病人の足元に立つと、悪魔の力でも追い払うことはできないのですね。やはり運命は変えられないということかな。
それにしてもこの男は、度胸がいいのか鈍感なのか。普通はすぐ逃げ出すけど、ましてや悪魔に面と向かって角が生えていたと指摘するとは。「姿を見られたからには貴様の魂を差し出せ」と、これから男に恐怖が待っているかもしれませんね。口は災いの元です。