『完訳グリム童話集(二)金田鬼一訳』その48
『まっしろ白鳥〈KHM46〉』
あらすじ(要約)
昔、魔法つかいがいました。貧乏人の姿で方々の家の戸口で物乞いをしては美しい女の子を捕まえていました。その女の子たちは二度と人目に触れないので、どこへ連れていくのか誰もわからないのです。
ある日、魔法つかいは美しい三人の娘がいる家に現れました。体の弱ったかわいそうな乞食のようにみせて、施しをもらった物を入れでもするような籠を背負っていました。
魔法つかいは、食べ物をいただきたいと言い、一番上の娘がパンを一つ渡そうとし、魔法つかいが娘に触れると、娘は籠の中に跳びこみました。
娘が籠の中へ入ると、魔法つかいは急いで去り、森の中の自分の家へ担ぎ込みました。
家の中は豪華でした。欲しい物は何でも娘に与え「いい子だ、欲しい物は何でもあげるよ」と言いました。
二、三日経つと、魔法つかいが「用事で旅に出る。少しの間、おまえに一人でいてもらう。これが家の鍵だ。どこでも行って、何でも見るがいい。ただ一つ、小さな鍵で開く部屋だけは入ってはいけない。命はないぞ」と言いました。
それから卵を一つ渡して「この卵は大事にしてくれ。失くしたらとんでもないことになるかもしれない」とも言いました。娘はそのとおり約束しました。
魔法つかいが出掛けると、娘は家の中を見物しました。どの部屋も金銀で輝き、こんな煌びやかなものは見たことがない。
例の開けてはいけない部屋に出ました。通り過ぎるつもりでしたが、覗いてみたくて我慢できず、鍵を差し込んで回すと戸は開きました。
部屋には、血だらけの大きなたらいが真ん中にあり、切り刻まれた死んだ人間がいくつも入っていて、台には斧が置いてあったのです。娘は驚き、手に持っていた卵がたらいの中に落ちました。卵を拾い出して血を拭き取ってみましたが、拭くそばから血が出てくるのです。
やがて魔法つかいが旅から戻りました。帰ってくるなり寄こせと言ったのは、鍵と卵でした。娘は渡すときに震えました。魔法つかいは、赤いしみを見てすぐにさとりました。
「わたしがいかんと言うのに、あの部屋に入ったからには、おまえの命もこれまでだぞ」
魔法つかいは娘の髪を掴んでひきずり、頭を例の台の上に載せて切り落とし、手足もばらばらにしたので血は床に流れました。それを他の死骸の入っているたらいの中へ放り込んだのです。
「今度は二番目の娘をさらってきてやれ」
魔法つかいは、また貧乏人の姿になりその家の戸口で物乞いをしました。すると二番目の娘がパンを一つ持ってきました。
魔法つかいは、この娘も同じように触っただけで連れ去りました。
娘は姉と同じ目にあいました。例の血の部屋を開け覗いたばかりに命で償いをすることになったのです。
それから魔法つかいは、また出かけて三番目の娘をさらってきました。利口な知恵のある女の子でした。
魔法つかいが鍵と卵を渡し、旅に出ると、娘は一番に卵を大事にしまい込んで、家じゅうの見物をして、最後に開けてはいけない部屋に入りました。
姉二人が殺され、手足を切り離されてたらいの中に転がっているのでした。
妹はばらばらになっている手足を集め、頭、胴、腕、脚をくっつけた途端に手足が動き出し、女の子二人は生き返りました。三人は喜び抱き合ってキスしました。
魔法つかいは帰ってくると、鍵と卵を出させましたが、卵に血の跡が見つからなかったので「お前は試験に合格した。私の嫁にしてあげるよ」と言いました。
「ええ、いいことよ」と娘は返事し「先に金貨の一杯入っている籠を父と母に届けてちょうだい。自分で背負っていくのですよ。その間に婚礼の支度をしておきます」
娘は、隠れていた姉たちのところへ駆けつけ「今なら助けてあげられる。あの悪者に姉さんたちをおんぶさせて家まで行かせるの。家へ着いたらすぐ助けを寄こして」と言いました。
娘は二人を籠に入れると、金貨をかぶせて見えないようにしてから魔法つかいを呼んで「この籠を背負っていくの。あなたが途中で休むといけないから、私、小窓から見ていますから」と言いました。
魔法つかいは籠を背負って出掛けましたが、とても重たいので汗が流れました。腰を下ろして休もうとすると、籠の中の娘が「窓から休んでいるのが見える。すぐに出掛けなさい」と声を掛けました。
魔法つかいは、嫁が怒鳴りつけたのだと思い、歩き出しました。また腰を下ろそうとすると「小窓から休んでいるのが見える。出掛けなさい」と声がしました。立ち止まるたびに同じ声がするので、歩き続けて、息も絶え絶えに、金貨と女の子二人が入っている籠を両親の家に運び込みました。
こちらの家では、花嫁が婚礼の支度をして、魔法つかいの友達を招きました。
それから歯を剝き出した頭蓋骨を持ってきて、髪飾りを施し、花輪をのせると、それを屋根裏部屋の窓に持ち出して、外を覗くようにさせました。
嫁は蜂蜜の樽に入り、寝床の羽根布団を切り開くと、その中で転がったので、見かけはまるで変てこな鳥みたいになって、嫁と思う者は誰一人いません。
この姿で家を出ると、途中で婚礼の客に何人か会い、尋ねられます。
「まっしろ白鳥さん、どこから来たんですか」
「まっしろ白のおうちから」
「若い花嫁はうちの中で何をしている?」
「下から上まで掃除して、屋根裏の窓から覗いている」
最後に戻ってきた花婿が花嫁に出くわしました。花婿も他の人たちと同じように尋ねました。
「まっしろ白鳥さん、どこから来たんですか」
「まっしろ白のおうちから」
「若い花嫁はうちの中で何をしている?」
「下から上まで掃除して、屋根裏の窓から覗いている」
花婿が見上げると、化粧をした頭蓋骨が見えたので、それを自分の嫁だと思って、懐かしそうに会釈しました。
花婿が客たちと家の中へ入った頃に、嫁の兄弟や親類が来ました。嫁を救うために寄こされた人たちで、この家の戸を全部閉め切り、誰も逃げ出せないようにして家に火をつけたので、魔法つかいは召使いたちと一緒に焼け死んでしまいました。
ひとりごと
この物語は『フィッチャーの鳥』というタイトルのほうが一般的でしょうか。
これもグリム童話らしいエグい場面がありますが、単なる恐怖や残酷さではないことが伝わってきますね。
力や暴力ではなく、知恵と勇気、慎重さで運命を切り開く大切さ。
でも、渡された「卵」の役割は、今ひとつピンときませんね。
