ふでモグラの気ままな日常

読書をこよなく好む早期退職した元公務員が、読んだ本の紹介を中心に、日頃気づいたことや感じたことなどについて、気ままにひとりごとを発信する雑記ブログ

【読書】グリム童話『柏槇の話』

『完訳グリム童話集(二)金田鬼一訳』その51

『柏槇(びゃくしん)の話〈KHM47〉』

あらすじ(要約)

 昔、金持ちの男に美しい妻がいました。妻は子供を授かるようにとお祈りしますが、いつまでたっても授かりせん。

 二人の家の前に柏槇という木がありました。妻はその木の下に立ち、林檎の皮をむいていましたが、指を切り、血が雪に落ちました。

 妻は血を見て、やるせない気持ちになり「血のように赤く、雪のように白い子供がいたらいいのに」と言いました。


 1ヶ月がたつと雪が消え、2ヶ月で緑、3ヶ月で花が咲きました。4ヶ月で森の木々が濃くなり、鳥たちが囀り、花は梢から舞い落ちました。

 5ヶ月たって、妻は柏槇の木の下に立っていました。いい匂いがし、妻は嬉しさに胸が踊り、膝まづきました。

 6ヶ月目が過ぎ去ると、木々に実がつき、妻は口を聞かなくなり、7ヶ月目が過ぎると、柏槇の実を食べました。すると、気が沈んで病気になりました。

 8ヶ月目がたち、妻は夫を呼び「私が死んだら、柏槇の木の下に埋めてください」と遺言しました。

 妻は安心して、明くる月に雪のように白く、血のように赤い子供を生み、妻は死んでしまいました。

 夫は妻を柏槇の木の下に埋め、泣き出しました。しばらくたつと泣くのをやめ、それからまたしばらくして、夫はまた妻をもらいました。


 二度目の妻には娘ができました。最初の妻の子は男子で、血のように赤く、雪のように白い子でした。妻は、男の子を見ると嫌な気持ちになり、財産はすべて娘にやりたいと考えているところへ悪魔が妻の心に付け入りました。

 妻は男の子に辛くあたりました。学校から帰っても落ち着く場所が一つもないのです。
 ある時、妻が物置に入っていると、娘が「林檎をちょうだい」と言いました。

 妻は林檎を一つ箱から出し渡しました。その箱には大きな重い蓋があって、角ばった鉄の錠前が付いていました。

「お兄ちゃんにも一つもらえない?」

 妻は気持ちを悪くしましたが「学校から帰ってきたらね」と言いました。

 

 妻は男の子が帰ってきたのを見つけると、悪魔が乗り移ったかのように林檎を娘から取り返して、「お兄ちゃんより先にあげられないよ」と言い、林檎を箱に投げ入れ、蓋を閉めたところへ男の子が戸口へ入ってきました。

 妻は猫なで声で「林檎がほしいかい?」と言って、憎々しく男の子を見ました。

「お母さん、怖い顔。林檎をちょうだい」

 妻は男の子に「ついておいで」と言い、蓋を開け「自分で林檎をお出しな」

 こう言われ、男の子が箱の中に身を屈めた途端に、悪魔の指図で妻が勢いよく蓋を閉めたので、首はちょん切れて、林檎の中に落ちました。

 妻は怖くなって「自分の所為ではないことにできないか」と考えました。箪笥から白布を取り出し、男の子の頭を首の付け根に乗せて、布を巻き付け、男の子を椅子に座らせ、林檎を持たせました。

 

 娘のマリアが台所の母親のところに来ました。母親はお湯を入れた鍋をずっとかきまわしていました。

 マリアが「お兄ちゃんが座っていて、白い顔で手に林檎を持ってるの。ちょうだいっておねだりしても、返事しない。とても怖かったわ」と言いました。

「もう一度行ってごらん」と母親は言いました。「また返事をしなかったら、耳をぶっておやり」

 マリアは兄のところへ行き「林檎、ちょうだい」と言いました。しかし兄は黙っていたので、耳をぶつと兄の頭が落ちました。マリアは泣き出しました。

「お母さん、お兄ちゃんのおつむぶって落っことしちゃった」

「マリアちゃん、大変なことしたね。黙ってるんだよ。兄ちゃんをスープにしよう」

 母親は男の子を切り刻み、鍋で煮てスープにしました。マリアの涙が鍋に入り、塩を入れずにすみました。


 父親が帰ってきて「息子はどこだ?」と言いました。母親はスープの皿を食卓に乗せました。

「田舎へまいりました。ミュッテンの大叔父様のところに少しの間泊まってくるって」

「何しに行ったのだい。わしに言わずに」
「行きたかったのよ。6週間ばかり行ってもいいかって」

「変だな」と父親は言いながら、御飯にしました。

 そして「マリア、なぜ泣くんだ。このご馳走はどうしてこんなにおいしいのかな。もっとおくれ」と父親は言いました。

 食べれば食べるほど欲しくなり、食べに食べて、骨はみんな食卓の下に捨てて、とうとう残らず平らげてしまいました。
 マリアは上等な絹のきれを持ってきて、骨を全部拾い集め、絹のきれに包んで戸外へ持って出て泣きました。柏槇の木の下に置きました。心が軽くなり、もう泣きませんでした。

 すると、柏槇の木が動き出し、枝が分かれ、木から霧が上っているように見え、この霧の真ん中が火のように燃え、その火から美しい鳥が一羽飛び出しました。

 鳥は囀りながら舞い上がって行ってしまうと、柏槇の木は元に戻り、絹のきれはありませんでした。

 マリアは兄がまだ生きているかのようにうれしくなり、家に入り、御飯を食べました。


 どこかに飛んでいった鳥は、金細工師の家にとまり、唄い出しました。

 

「お母さんが、僕を殺した、お父さんが、僕を食べた、妹のマリアが僕の骨をみんな探して、絹のきれに包んで、柏槇の木の下に置いた。キーウィット、キーウィット、なんときれいな鳥だろ、僕は」


 金細工師は、鳥が屋根にとまって唄をうたうのを聞いて、面白く思いました。

「鳥や、唄が上手だね。もう一回唄っておくれ」

「いやだ、二度唄うなら金の鎖をおくれ」

「それ、金の鎖をやるぞ、もう一度唄ってくれ」

 鳥はやってきて、金の鎖を右足に挟んで、親方の前にとまりまた唄いました。

 

 唄いきると、鳥は靴屋に飛んで行って、屋根にとまってまた同じ唄をうたいました。

 靴屋は「鳥や、唄がうまいな」と言い、家の中にいる人たちを一人残らず呼び出しました。みんな出てきて鳥を眺めました。その鳥の美しいこと、真っ赤な羽、みどりの羽、首の周りは金色ばかり、目は星のように光っているのです。

「鳥や、もう一度唄っておくれ」

「いやだ、二度唄うなら何か僕にくれなくちゃ」

「おっかあ、仕事場へ行って、赤い靴を持ってきてくれや」

 おかみさんは靴を取りに行きました。

「これでよかろ、鳥や」

 鳥は下りてきて、左足の爪で靴を掴みとり、屋根に飛んで戻り、また同じ唄をうたいました。


 唄い終わると、鳥は飛んでってしまいました。鎖を右足に、靴を左足に掴んで、遠くの粉ひき場のほうへ飛んで行きました。

 鳥は粉ひき場の前に聳え立つ菩提樹にとまって、唄をうたいました。
「お母さんが、僕を殺した」これを聞き1人が仕事をやめました。

「お父さんが、僕を食べた」そしてもう2人。

「妹のマリアが」また4人、仕事をやめました。

「僕の骨をみんな探して、絹のきれに包んで」ここまで唄うと、まだ石臼を刻んでいる者はもう8人になってしまいました。

「柏槇の木の」ここまできて、仕事をしているのが、まだ5人。

「下に置いた」ここまできて、まだ仕事をやっているのが1人。

「キーウィット、キーウィット、なんときれいな鳥だろ、僕は」

 これを聞いて、一番最後の男も仕事をやめました。おしまいの文句だけは聞こえたのです。

「鳥さん、唄がうまいんだね。俺にももう一度唄ってくれ」

「いやだ、二度唄うならその石臼をおくれ」

「こいつが俺だけの物なら、あげるんだがね」

「もう一回唄うなら、臼をくれてやれ」ほかの人たちが言いました。

 それを聞いて、鳥は下りてきました。鳥は石臼の穴に首を突っ込み、首の周りにはめて、また木に飛んで行って唄いました。


 唄い終わると、鳥は遠く父親の家へ飛んで行きました。
 部屋では、父親と母親とマリアが御飯を食べていました。

 父親が「胸がせいせいしたよ、気持ちがいいなあ」と言うと「とんでもない」と母親は言いました。「とても不安で仕方ないのよ。まるで嵐がくるみたい」

 マリアはただ泣いてばかりいましたが、鳥が飛んできて屋根にとまると、父親が「本当に嬉しい気持ちだ。外には太陽が照っているし、昔の友達にまた会うような気分だ」と言いました。

「胸騒ぎがして仕方がないのよ。血管の中は火が流れるよう」母親はこう言いながら、着物の胸をはだけました。

 マリアは片隅に座って泣いています。

 鳥は柏槇の木にとまり唄をうたいました。

「お母さんが、僕を殺した」

 母親は耳をふさぎ、目を閉じて見ようとも聞こうともしませんでしたが、唄声は嵐のように母親の耳の中に押し込んできました。

「お父さんが、僕を食べた」

「母さんや、あそこにきれいな鳥がいる。あいつの唄は素晴らしいぞ。日がぽかぽか当たってる。ニッケイのようなにおいがする」と父親は言いました。

「妹のマリアが」

 これを聞くと、マリアは泣くのをやめました。

 父親は「外へ出てあの鳥をそばで見なくては」と言いました。

「行かないで。家が揺れて火に包まれているような気がする」と母親は言いました。

 しかし、父親は外に出て鳥を見ました。

「僕の骨をみんな探して、絹のきれに包んで、柏槇の木の下に置いた。キーウィット、キーウィット、なんときれいな鳥だろ、僕は」


 こう唄いながら、鳥は金の鎖を落とし、それはちょうど父親の襟首に落ち、すっぽりとはまりました。

 父親は中に入り「見てごらん、きれいな鳥だ。こんなきれいな金の鎖をくれた」と言いました。
 母親は怖がっていました。部屋の床に倒れ、帽子が頭から落ちました。その時、鳥がまた唄い出しました。

「お母さんが、僕を殺した」

「深い地面の下にいたい。そうすれば聞かずにすむ」

「お父さんが、僕を食べた」

 母親は死んだようにぐったりしました。

「妹のマリアが」

「私も外へ行ってみる、何かくれるかしら」とマリアは言いました。

「僕の骨をみんな探して、絹のきれに包んで」

 こう唄いながら鳥はマリアに例の靴を落としました。

「柏槇の木の下に置いた。キーウィット、キーウィット、なんときれいな鳥だろ、僕は」

 マリアは心が弾んで仕方がありません。新しい赤い靴を履いて、踊りながら家に入りました。
「外へ出るときは悲しかったのに、今はいい気持ち。素敵な鳥ね。赤い靴をくれたわよ」

「だめ、だめ」と言って、母親が跳ね起きました。髪の毛は炎のように逆立ちました。「まるで世界が沈むようだわ、私も外に出てら、気持ちがよくなるかしら」
 母親が戸口から出た途端に、どたーんと、母親の頭目掛けて鳥が例の石臼を落としたので、叩き潰されてしまいました。

 父親とマリアはその音を聞いて、外へ出てみました。煙と炎と火がその場所から立ち上って、それが消えたと思ったら、そこに兄が立っていました。

 兄は、父親とマリアの手をとり、3人は大喜びで家へ入って、御飯を食べました。

 

ひとりごと

 グリム童話の中でも特に陰鬱で残酷な話の一つですね。

 柏槇の木が少年の死を受け止め、癒しと再生の場となります。

 現代においても虐待で命を落とす子が絶えませんね。こんなふうに自然を通じて癒され、失った命が再生できたらいいのになあと思います。