『完訳グリム童話集(二)金田鬼一訳』その52
『ズルタンじいさん〈KHM48〉』
あらすじ(要約)
お百姓がズルタンという名前の忠実な犬を飼っていました。
強いズルタンもお爺さんになり、歯が全部なくなってしまったので、物をしっかり咥えることができなくなりました。
ある日、お百姓がおかみさんに「ズルタンじいさんを明日撃ち殺してやる。もう役に立たない」と言いました。
おかみさんは、かわいそうに思って「長いこと奉公してくれてので、一生飼ってやっていいと思うわ」と答えました。
「あいつはもう歯が一本もない。怖がる泥棒なんてもういないよ」と亭主が言いました。
犬はかわいそうにこの話を全部聞いてしまい、明日がこの世の別れだと思うと悲しくなりました。
犬は仲良しの狼の友達がいました。犬は森へ入って、この友人に自分の不幸をこぼしました。
「おじさん、元気を出せよ。ぼくが君の難儀を救ってあげるからね。考えがあるんだ。明朝はやく、君の主人はおかみさんと一緒に乾草を刈りに行く。幼子も連れていく。仕事中、子供を藪の日陰に転がしておくね。君は番をしているように子供のそばにねるんだ。ぼくが森から出てきて、子供をさらう。君は子供を取り返すため、ぼくを追いかけるんだ。そこでぼくは子供を落とすから、君はそいつを連れて帰る。両親は君が子供を救ったと思って、君を殺すどころか、何も不自由ない思いをさせてくれるよ」と狼は言いました。
犬はうまい話だと思って、そのとおりやってみました。
狼が子供を咥え原っぱをかけていくのを見て、父親は大声をあげました。
ところが、その子供をズルタンじいさんが取り返してくると、父親は喜びズルタンをなでながら「お前を一生飼っていてやる」と言いました。
それからおかみさんに「すぐに家へ帰って、小麦の楔パンを粥にしてズルタンにやってくれ。それから俺の寝床から枕を出してやれ」と言いました。
その時から、ズルタンじいさんは幸せな日を送る身の上になりました。狼も訪ねてきて、うまくいったことを喜びました。
「だがね、おじさん。ぼくは時々、君の主人のところから太った羊をさらっていくから、その時は目を瞑ってくれよ」と狼は言いました。
「私はどこでも主人に忠義を尽くすんだ。そんなことされて黙ってるわけにいかない」と犬は答えました。
狼は、羊をさらうつもりで夜中に忍びこみました。
ところが、ズルタンは狼の企みを主人に漏らしていたので、お百姓は狼がやってきたところをからざおで引っ叩きました。
狼は逃げ出し「覚えてろ、友達がいのない奴だ。仕返ししてやる」と犬に怒鳴りました。
明朝、狼は豚を使いにして、犬に森へ来いと言わせました。
決闘をするつもりです。
ズルタンじいさんの味方は、3本足の猫のほかにはいません。
二匹は連れ立って出掛けましたが、猫はびっこを引いて、それでも痛くてたまらないので、尻尾をピンと立てました。
狼とその仲間は、もう指定した場所に来ていましたが、相手がやってきたのを見て、犬が長い剣を持ってきたと勘違いしました。真っ直ぐにピンと立った猫の尻尾を剣だと思ったのです。
そして、猫が3本足でウサギみたいに跳ねるのを石を拾ってぶつけるに違いないと考えました。
それで2匹は怖気づき、野豚は木の葉の茂った中に這い込み、狼は木の上に跳び上がりました。
犬と猫は、近寄って見ても誰も姿を見せないのを不思議に思いました。
そころが、野豚は木の葉の茂みに隠れきれず、耳だけが飛び出ていました。
猫が用心深く見まわしていると、豚は耳を動かしました。すると、猫はネズミが動いたのだと思って、耳を目掛けて跳びつき食いつきました。豚は悲鳴をあげて起き上がり「あそこの木の上にいるのが発頭人だ」と怒鳴りながら、逃げ出しました。
犬と猫が上を見ると、狼が目に入りました。狼はこんなにびくびくした様子を見せたのが恥ずかしくて、犬と仲直りしました。
ひとりごと
このお話の核心は「ほんとうの友人とは」という点ですね。
たとえ命の恩人である友人の頼みでも、その悪行の片棒を担げるか。大きな分岐点です。
恩を忘れず、正しい方向へ信義を貫く。その姿勢こそが真の友情と誠実さを示します。
道を誤らないようにしたいですね。
