『完訳グリム童話集(二)金田鬼一訳』その65
『犬と雀〈KHM58〉』
あらすじ(要約)
牧羊犬の飼い主は良い人でなく、えさをろくに与えませんでした。犬は家出しました。道で雀と出会い、雀は「犬くん、どうしてしょげているんだい」と声をかけました。
「お腹がぺこぺこだ、食べる物が何もない」と言うのです。
雀は「兄さん、一緒に町においで。お腹いっぱいにしてあげる」と言いました。
犬と雀は町へ行きました。肉屋の前で雀は犬に「肉を一切れつついて落としてあげる」と言って、肉切台にとまりました。周りを見回し、端にある一切れを滑り落としました。犬は肉をぱくりとくわえて食べました。
すると雀は「さあ、別の店へ行こう。満腹にしてあげるよ」と言いました。
犬が二つ目も食べると「犬の兄さん、お腹はったかい」と雀が聞いてみました。
「肉はたくさんだが、まだパンをもらってない」
「パンだってあげるさ」
雀は犬をパン屋に連れていくと、小さなパンを二つ三つ落としてやりました。犬がもっと欲しがったので、別の店に連れていって、もう一度パンを落としてやりました。
雀は「犬の兄さん、お腹いっぱいになったかね」と言いました。
「うん」と犬は答えました。
「今度は町の外へ出てみよう」
犬と雀は、町の外の国道へ出ました。暖かかったので犬が「疲れたから寝たい」と言い出しました。
「いいとも、遠慮なく寝て」と雀が答えました。「僕は枝にとまっているよ」
犬は転がって寝てしまいました。
馬方が走ってやってきました。荷車一台に馬を三頭つけて、ワインを二樽積んでいました。
雀は、馬方がよけず犬が寝転んでいるところへまっすぐ進んでくるのを見て「馬方、やめろ、そんなことをすると僕がひどい目にあわせてやるぞ」と叫びました。
馬方は「お前なんぞに俺がひどい目に遭わされるかい」と、呟きながら、鞭を鳴らし、荷馬車を犬の上に走らせ、ひき殺してしまいました。
それを見て雀は「俺の兄貴分の犬をひき殺したな。仕返ししてやる」と怒鳴りました。
「お前なんぞにどうかされてたまるか」と言い捨てて、馬方は行ってしまいました。
雀は荷馬車に潜り込んで、樽の栓を突っついて抜いて、ワインは全部流れ出しました。馬方が後ろを見ると、一つは空っぽになっていました。
「やれやれ俺も可哀そうな男だ」と馬方は叫びました。
「まだ可哀そうが足りない」
雀はこう言いながら、一頭の馬の頭に飛んで行き、両目をほじくり出しました。
馬方はそれを見ると鉈を出して、雀をどやしつけようとしましたが、雀はひらりと飛び、馬方は馬の頭をぶん殴ってしまったので、馬は死んで倒れました。
「やれやれ俺も可哀そうな男だ」
「まだ可哀そうが足りない」
馬方が二頭の馬を引いていくと、雀は二つ目の樽の栓をつついて抜いてしまったので、ワインはみんなこぼれてしまいました。
馬方はそれに気づいて「やれやれ俺も可哀そうな男だ」
「まだ可哀そうが足りない」
雀は、二番目の馬の両目をほじくり出しました。馬方は鉈を振り上げましたが、雀が飛び上がったので馬がぶん殴られて、ばったり倒れました。
「やれやれ俺も可哀そうな男だ」
「まだ可哀そうが足りない」
雀は、三番目の馬の目玉をつつきました。
馬方は、雀を目掛けて打ちましたが当たらず、三番目の馬もぶち殺してしまいました。
「やれやれ俺も可哀そうな男だ」
「まだ可哀そうが足りない。今度はお前のうちを可哀そうにしてやる」と雀は言って飛んでいってしまいました。
馬方は荷馬車を置き去りにして、怒りながら家に帰りました。
馬方は「ひどい目にあった。酒はこぼれちまう、馬は三匹とも死んじまう」とおかみさんに言いました。
「おまえさん、しょうのない鳥がうちの中に入ってきたんだよ。たくさん鳥を集めてきて、上の麦倉で麦を根こそぎ食べてるんだよ」とおかみさんは答えました。
馬方が上へ行くと、何千という鳥が屋根裏の物置にいて、麦を食べてしまったあとでした。例の雀はその真ん中にいるのです。
「やれやれ俺も可哀そうな男だ」
「まだ可哀そうが足りない。今度はお前の命もとってやる」
馬方は財産を全部なくしました。雀が憎たらしくて仕方がありません。
ところが、雀は窓の外にとまって「馬方、お前の命をとってやる」と怒鳴りました。
馬方は鉈をつかみ、雀のいるほうへ叩きつけましたが、窓ガラスを割ったばかりで鳥には当たりません。
雀は家の中に入ってくると、ストーブの上にとまり「馬方、お前の命をとってやる」と怒鳴りつけました。
馬方は気違いのようになって、ストーブを叩き割りました。雀があちこち飛び回るので、家の道具を片っ端から壊しましたが、どうしても雀を叩きつけることができないのです。
それでもやっと馬方は素手で雀を捕まえました。
おかみさんは「私がぶち殺してやろうか」と言いました。
「だめだ、それじゃ手ぬるい。こいつには苦しみ死なせてやる。俺が鵜呑みにしてやる」
馬方は雀を鵜呑みにしました。
ところが、雀はお腹の中で暴れ出しました。ばさばさ動き回り、逆戻りに馬方の口の中へ出てきました。そして、頭を外へ出して「馬方、お前の命をとってやる」と怒鳴り散らしました。
馬方はおかみさんに鉈を渡し「俺の口の中の鳥をぶち殺してくれ」と言いました。
おかみさんは殴りつけました。けれども、狙い間違え、頭を殴りつけたので、馬方はひっくり返って死にました。
雀は飛びたって逃げてしまいました。
ひとりごと
雀による徹底的な報復でしたね。
雀は小さく非力な存在で知恵と執念で人間を追い詰めました。
弱者への仕打ちの報いと、正義であっても行き過ぎた怒り。
この物語は、両面への警告でしょうね。
