『完訳グリム童話集(二)金田鬼一訳』その67
『フリーデルとカーテルリースヒェン〈KHM59〉』
あらすじ(要約)
フリーデルという男とカーテルリースヒェンという女は、結婚して間もない若い夫婦でした。
フリーデルは「畑に行ってくるよ。戻ってきたら、肉の焼いたものをお膳につけて、疲れが直る飲み物を用意しておくれ」と妻に言いました。
おかみさんは腸詰をフライパンに入れ火にかけ、腸詰ができる間に地下室で飲み物を用意できると思いつきました。
地下室に下りて、ビール樽の栓をひねり、ジョッキの中へ入れました。妻はそれを見ていましたが、犬が腸詰をフライパンから取っていくかもしれないと思いつき、階段を駆け上がりました。
スピッツは腸詰を引きずっていくところです。犬の後をつけて原っぱへ追いかけましたが、畑を飛び越え行きました。
カーテルリースヒェンは諦め戻りました。その間にビールは樽から流れ出していました。樽の栓を閉めてなかったからです。ジョッキがいっぱいになり、地下室に流れ出し、樽は空っぽになってしまいました。
おかみさんはしばらく考え、小麦粉が一袋あるのを思い出して、ビールの上に撒くことにしました。物置から袋を下ろしてくると、放り投げたので、ジョッキがひっくり返り、フリーデルの飲み物までこぼれてしまいました。
そして小麦粉を地下室にまき散らしました。
昼にフリーデルが帰ってきました。「どんなご馳走かな?」
「腸詰を焼いていたの。そしたらビールを注いでる間に、犬が腸詰を喰えていったのよ、犬を追いかけている間にビールが全部出ちゃって、そのビールを小麦粉で乾かそうと思ったら、ジョッキまでひっくり返してしまったのよ。でも地下室は乾いてるわ」
「お前、だめじゃないか。腸詰をとられ、ビールをこぼして、上等な小麦粉まで撒いて」
「だってそんなこと、わからなかった。教えてくれればよかったのに」
亭主は気を付けた方がいいと考えました。
フリーデルは銀貨を貯めこんでいたので、それを金貨に替え妻に言いました。
「ごらん、これはカルタの数取り玉の黄色だよ。壺に入れて牛小屋の飼葉桶の下に埋めておく。お前はそれに手をつけちゃいけない」
「手なんかつけないわよ」
おかみさんはこう言いましたが、フリーデルの留守に行商人たちがやってきて、買ってくれるものはないか、と尋ねました。
「お金がないから何も買えない。黄色い数取り玉でよければ買ったげる」
「黄色い数取り玉?それを見せてください」
「牛小屋に入って飼葉桶の下を掘ってごらんなさい。私はそこへ行っちゃいけないの」
狡い男どもがそこを掘ってみると、出てきたのは金貨でした。行商人たちは壺やどんぶりを置き去りにして、金貨をさらって逃げてしまいました。
カーテルリースヒェンは新しい器だから役に立つと思いましたが、台所には足りていたので、全部の壺の底を抜いて、家の周りの柵にはめておきました。
フリーデルが戻ってそれを見ると「何をしたんだい」と言いました。
「買ったのよ、飼葉桶の下に隠してあった黄色い数取り玉で。自分はそこに行かなかったわ。行商人たちに掘らせたの」
「とんでもないことしたね。あれは金貨で私たちの全財産だよ。そんなことをしちゃ、いけないじゃないか」
「でも私、知らなかったわ。前から言ってくれればよかったのに」
カーテルリースヒェンは考えていましたが、「あのお金、取り返してやりましょうよ。泥棒を追いかけましょう」と言いました。
「やってみよう。途中で食べられるようにパンとチーズを持っておいで」とフリーデルが言いました。
二人は出かけました。山へさしかかると、道の両側に車の輪のあとがめりこんでいました。カーテルリースヒェンはバターを取り出すと、車輪のあとに塗って後から車の輪が通っても押しつぶされないようにしてやりました。
かがんでいるときにチーズが一つポケットから落ちて、山をすべり落ちていきました。
「山を登ったのよ、また下りるのはごめんだわ。別のチーズを迎えに出してやればいいでしょ」と、別のチーズを転がしました。
チーズは二つとも戻ってこないので、連れを待っていて一人歩きは嫌なのかも、と考えて三つ目を落としました。
三つとも戻ってこないので、三つ目は迷子になったのかも。四つ目をお使いにやって、先の連中を呼び寄せようとしました。
けれども、四つ目も三つ目と同じでした。カーテルリースヒェンはむしゃくしゃし、五つ目も六つ目を落としました。もう一つもありません。
少しの間、様子を見ていましたが、いつまでたってもやってこないので「あきれた。死神を呼びにやるにはもってこいだ。いつまでも帰ってこないんだから。私は先に行くよ」と先へ行くと、フリーデルがいました。さっきから待っていたのでした。
「持ってきた物を食べよう」
おかみさんは、バターも何にもついていないパンを渡しました。
「バターとチーズはどうしたの?」
「バターは車の輪のあとへ塗りました。チーズはすぐやってくるしょう。一つが逃げたので、他のを呼びに行かせたの」
「そんなバカなことしちゃいけないよ」
「それなら、そう言ってくれればよかったのに」
二人はぼそぼそのパンを食べました。
「カーテルリースヒェン、家の戸締りをしてきたかい」
「してないわ、前に言ってくれればよかったのに」
「家に戻って、戸締りをしておいで。食べ物も持ってきておくれ」
カーテルリースヒェンは戻って行き、干し林檎と飲み物には酢をひと徳利持っていこうと考えました。
おかみさんは二枚戸の上部に閂をしましたが、下部の戸ははずして肩にかつぎました。戸を大切にすれば家の戸締りは大丈夫なのだと思い込んでいるのです。
カーテルリースヒェンはゆっくり歩きました。時間がかかればフリーデルも骨休めができると考えました。
「戸を持ってきたわ。これであなたが自分で家の番ができますよ」
「とんでもない利口な女房を持ったもんだ。誰もかも入れるように下の戸をはずし、上の戸に閂をさしてきたのか。お前が持ってきたんだから、自分でかついで行くんだ」
「戸は私がかつぐわ、だけど干し林檎と酢の徳利まで持つのは重すぎる。戸にぶら下げて、戸に持って行かせる」
二人は森へ入って、暗くなってきたので、木に登って夜を明かすことにしました。
例の連中がやってきました。二人のいる木の下で焚火をはじめ、獲物を分けようとしました。
フリーデルは木の裏側から下りて、石を集め、また木に登って、泥棒たちを石で打ち殺すつもりでした。
ところが石は当たらず、悪者どもは「間もなく朝だぞ。風が樅の実を揺すぶり落とすぞ」と大声で言いました。
カーテルリースヒェンは戸を担いで肩がめりこみそうなので、干し林檎のせいだと思い「干し林檎を捨てなきゃ」と言いました。
「そんなことしたら、いるのがばれるよ」
「とてもだめ、重いのなんのって」
「仕方がない、やってみろ」
干し林檎が転げ落ちると、下の連中は「鳥のふんが落ちてきた」と言いました。それからまもなく、カーテルリースヒェンは「だめ、酢をこぼさないと」と言い出しました。
「いけない、ここにいるのが知れたらどうする」
「だめ、この徳利の重たいこと」
「仕方がない、やってみろ」
酢は泥棒たちにひっかかり、「もう露が垂れてきた」と話し合いました。
とうとうカーテルリースヒェンは、重たいのはこの戸だと思い「この戸を捨てないとだめだわ」と言い出しました。
「いけない、そんなことしたら、ここにいるのがわかる」
「戸が本当に肩にめりこむ」
「しっかり持ってるんだ」
「だめ、落ちちゃう」
「しょうがない、落っことすがいい」
戸は落っこちてきて、下の連中は「悪魔が木から下りてきた」と叫んで、何もかも置きっぱなしで逃げ出しました。自分たちの金貨がそっくりあったので、持って帰りました。
家に戻ると、フリーデルが「お前も精出して働かなくちゃな」と言いました。
「畑へ行って麦でも何でも刈りましょう」
カーテルリースヒェンは畑へ行って「刈る前に食べようか。刈る前に眠ろうか。先に食べよう」と、ひとり言を言いました。それでむしゃむしゃ食べました。眠くなったのに刈りはじめたので、半分夢見ながら自分の着ている衣類をみんな切り裂いてしまいました。
長いこと寝て、目を覚ました時は半裸で「これは私?それとも違うの?私じゃないわ」と独り言を言いました。
夜になったので、夫の家の窓をたたいて「フリーデルさんですか」
「何ですか」
「カーテルリースヒェンさんはお宅にいますか」
「おりますとも。寝ていると思います」
「それなら、私はもう家にいるんだわ」と言って、どこかへ走り去りました。
外でカーテルリースヒェンは泥棒に会い、「泥棒のお手伝いしてあげるわ」と言いました。
悪者どもは、この女は土地の様子を知っているのだろうと、承知しました。
「皆さん、何かお持ちですか。泥棒に入りますよ」と叫びました。泥棒たちは、とんでもないと考え、カーテルリースヒェンを厄介払いしようと思いました。
それでおかみさんに「村外れに牧師の蕪の畑がある。蕪を抜いてきてくれ」と言いました。
カーテルリースヒェンは畑へ行って蕪を抜き始めました。そこへ通りがかった男が見つけると、悪魔が蕪を掘っていると考え、村の牧師のところへ駆け込み、「蕪畑に悪魔がいて、蕪を抜いています」と言いました。
「わしは足が悪いから、行って悪魔を追い払えない」
「それでは、おんぶいたしましょ」
男は牧師をおぶって連れて行きました。畑へ着くと、カーテルリースヒェンは畑を出ようとして棒立ちになりました。
「あっ!悪魔だ」と牧師が大声を上げました。二人は逃げ出しましたが、牧師はあまり怖かったので、足が悪いくせ、おぶってきた男よりも、もっとはやく駆け出すことができました。
ひとりごと
世間知らず、純粋⁉こんな奥さんだと困りますね。ユニークな物語です。
最後の夫婦の会話がおかしいですね。呆れて、もうまともに向き合う気がない夫の気持ちが表れています。
神父さんも恐怖で自分の足の悪さを忘れるのですね。
