『完訳グリム童話集(二)金田鬼一訳』その69
『水のみ百姓〈KHM61〉』
あらすじ(要約)
昔、金持ちの百姓ばかり住む村がありました。貧乏な百姓は一人だけ、皆は水のみ百姓と言っていました。
水のみ百姓は牝牛一頭も持たず、おかみさんは欲しくてたまりません。
ある日、水のみ百姓はおかみさんに言いました。「名付け親の指物師の親方に木で子牛を作ってもらい、他の牛と同じに見えるように樺色に塗ってもらおう。そのうち大きくなって牝牛になるよ」
親方は子牛をこしらえ色をつけると、草を食べているように頭を下げていました。
明朝、水のみ百姓は牛飼いを呼びとめ「俺も子牛を一匹持ってるが、小さくて抱いてもらわないといけない」と言いました。
牛飼いは子牛を抱き上げ、牧場へ運び、草の中に置きました。子牛は草を食べているように立っています。
牛飼いは「時期に歩くだろ。あんなに食うんだから」と言いました。
夜に群れを帰らせるとき、牛飼いは子牛に「立って食えるんだから、自分で歩け。お前を抱いて帰るのはごめんだ」と言いました。
水のみ百姓は戸口で子牛を待っていました。牛飼いが牛たちを追って村を通り抜けたのに、子牛が見えなかったので、聞いてみました。
牛飼いは「ずっと立って草ばかり食ってる。帰ろうとしない」と言いました。
「うちへ連れ戻してもらわなくちゃだめだ」
二人は牧草に戻りましたが、盗まれたあとで子牛はいませんでした。
牛飼いは「道を間違えたんだろ」と言いましたが、水のみ百姓は「そうは思わない」と言って、牛飼いを村長の前へ連れていきました。
村長は牛飼いを𠮟り、いなくなった子牛のかわりに牝牛を一頭やるよう言いました。
水のみ百姓夫婦は喜びましたが、飼料がないので食べさせられず、牝牛を殺すことになりました。肉は塩漬けにしました。町へ皮を売りに行って、その代金で新しい子牛を買うつもりでした。
途中、水車小屋に翼の折れたカラスがいたので、牝牛の皮にくるんでやりました。
天気が悪くなり雨風が激しいので、水車小屋に入り泊めてくれないか頼みました。粉ひきのおかみさんがいて「藁の上に寝なさい」と言って、パンをくれました。水のみ百姓はそれを食べ、皮をそばに置いて横になりました。
おかみさんは「こいつ、疲れて寝たな」と思いました。
いつもの生臭坊主がやってきました。粉ひきのおかみさんは「亭主は留守、ご馳走を食べましょう」と言いました。
水のみ百姓は聞き耳をたて、自分はパンだけだったのに腹を立てました。そこへ、おかみさんは焼肉、サラダ、お菓子、ワインをテーブルに並べました。
二人が食べようしたとき、戸を叩かれ「うちの亭主が帰ってきた」とおかみさんは言って、焼肉を壁戸棚の中へ、ワインは枕の下、サラダは寝台の上、菓子は寝台の下、生臭坊主は玄関の戸棚へ隠しました。
それから戸を開けて「よかった、あなたが戻ってきて。ひどい嵐ね」と言いました。
亭主は水のみ百姓が藁に寝ているのを見て「そこにいるやつは何の用だ」と聞きました。
「嵐の中をずぶ濡れで、屋根の下へ入れてくれというから、藁の上ならいいと言ったのさ」
「別に構わんが、早く何か食い物をくれ」と言いました。「お前もここへ来て、もう一度一緒にやんなよ」
水のみ百姓はお相伴しました。
食後、亭主はカラスのくるまった牛の皮を見て「何だいあれは?」と聞きました。
「あの中には占い師がいる」
「おれの占いもできるか?」
「いいとも。でも、占いは四つのことしか言わなくて、五つ目は言わないんだ」
「ひとつ、やってみてくれ」
水のみ百姓がカラスの頭を押さえると「ぎゃあ、クルル、クルル」と鳴きました。
「何て言った?」
「一番目は、枕の下にワインが突っ込んである」と水のみ百姓は言いました。
「畜生!そんなことあるか」と亭主は言い、行ってみるとワインが出てきました。
「その次は」
水のみ百姓がカラスをまた鳴かせて「二番目は、壁戸棚の中に焼肉がある」
「畜生!そんなことあるか」と言い、行ってみると焼き肉が出てきました。
水のみ百姓はカラスにもっと占わせて「三番目は、寝台の上にサラダがある」
亭主が行ってみるとサラダが出てきました。
しまいに水のみ百姓はカラスをもう一回鳴かせ「四番目は、寝台の下に菓子がある」
亭主が行ってみると菓子が出てきました。
ご馳走がそろい、二人は食卓につきましたが、おかみさんは心配で寝床へもぐり、家中の鍵を持っていました。
亭主は五番目も知りたかったのですが、水のみ百姓は「まずこの四つを食べよう。五つ目は悪いことだからな」と言いました。
食後、二人は五番目の占いをしたらどのくらい礼を出すか、取引がはじまって300ターレルでまとまりました。水のみ百姓がカラスの頭を押さえると鳴きました。
「何て言った?」
「玄関の戸棚の中に悪魔が隠れている」
「悪魔は追い出さねばならん」
亭主は玄関の戸を開けました。おかみさんは鍵を渡すしかありません。水のみ百姓が戸棚を開けると、生臭坊主が逃げ出しました。
亭主は「当たった」と言いました。
明朝、水のみ百姓は300ターレルを握って逃げました。家に帰ると、だんだん暮らしがよくなり、家を建てました。
百姓たちは金持ちになった水のみ百姓を噂しました。
水のみ百姓は村長に呼び出され、どうして金持ちになったのかと聞かれました。
「牝牛の生皮を町で300ターレルで売りました」
百姓たちはこれを聞くと、牝牛を全部殺して、売るつもりで皮を剥ぎました。
村長は「うちの召使が先に行く」と言いました。
召使が町の商人のところへ行くと、皮一枚に三ターレルしか出しません。後から押しかけてきた連中には「皮ばかりどうする」と、三ターレルも寄こしませんでした。
百姓たちは騙されたのに腹を立て、水のみ百姓を村長に訴え出ました。水のみ百姓は死刑が皆の考えで決まり、穴を空けた樽に入れられ川に流すことになりました。
御霊供養の坊主が呼ばれました。水のみ百姓は坊主を見ると、それは粉ひきのおかみさんのところに来ていた生臭坊主でした。
「おれはお前を戸棚から救い出してやった。おれを樽から救い出してくれ」
そこへうまい具合に顔見知りの羊飼いが羊を追い立ててきました。この男が村長になりたがっているのを知っていたので「嫌だ、そんなことごめんだ」と水のみ百姓が言いました。
羊飼いはそばへきて「どうした、何が嫌なんだ?」と尋ねました。
「おれがこの樽の中に座ったら、おれを村長にしてやると言うが、それが嫌だ」
「それで村長になれるなら、おれがその樽の中に入ってもいいよ」
「お前なら、間違いなく村長になれるよ」と水のみ百姓が言いました。
羊飼いは樽の中に座りました。水のみ百姓は蓋を打ちつけ、羊の群れを自分のものにして行ってしまいました。
生臭坊主は村へ行って御霊供養が済んだので、皆出てきて樽を川へ転がしました。
羊飼いは「おれは村長になりたいんだ」と叫びました。
皆は、水のみ百姓が言ったと思い「まずその前に下へ行って見物してくるんだ」と、川に転がしました。
百姓たちは家に帰りました。ところが、水のみ百姓も向こうからやってきました。羊の群れを追い立てて、のんびりした顔をしています。
百姓たちは驚き「水のみ!どこから来た?川から出てきたのか」と声をかけました。
「当たり前だ。深く沈んで川底まで行った。樽の底を抜いて這い出すと、羊が草を食ってたくさんいた。そこから引っ張ってきた」
「まだいるか?」
「いるもなんも。お前たちでもあんなたくさん要らないだろ」
百姓たちは、自分たちも羊を取りにいこうと相談しました。
村長は「おれが先に行く」と言いました。
それから皆で川に出掛けましたが、その時、青空に羊雲と呼ばれる細かい雲が出ていて、それが水に映っているのを見て「もう底に羊が見えるぞ」と言いました。
村長は「おれが先に行って調べてくる。うまくいったら呼ぶ」と言いました。
村長は飛び込みました。「ざぶーん」という音が、百姓たちには村長が「おいで」と怒鳴ったと早合点し、一人残らず川へ飛び込みました。
これで村中死に絶え、水のみ百姓はただ一人の跡取りとしてお金持ちになりました。
【ひとりごと】
グリム童話は、「貧しくても正直で謙虚な者は救われる」という物語が多くあります。
でもこの『水のみ百姓』は、「貧しいこと自体が尊いのではなくて、その貧しさの中でどう生きるか。その中で”ずるさ”を正当化してはいけない」というメッセージを少し皮肉な形で示している物語だと言えますね。
