完訳グリム童話集(二)金田鬼一訳』その72
『黄金のがちょう〈KHM64〉』
あらすじ(要約)
昔、男に三人の息子がいました。末の子は抜作といって人に馬鹿にされ、人並みの扱いを受けませんでした。
一番上の兄が森へ入ろうとしたとき、母が上等なお菓子とぶどう酒を持たせました。
森で一寸法師の爺さんが出てきて「あなたのお菓子をひとかけくださいな、ぶどう酒を一口飲ませてくださいな」と言いました。
すると、息子は「お前にあげたら、自分のがなくなる。退いた」と言い、行ってしまいました。
それから、木を切り始めましたが、切り損なって斧が腕へくいこみ、家へ帰って包帯をしなければいけなくなりました。これは一寸法師の仕業です。
今度は、二番目の息子が森へ入りました。母は兄と同じにお菓子とぶどう酒を持たせました。この息子にも一寸法師が現れ、お菓子とぶどう酒をねだりました。
けれども、二番目の息子も断り、行ってしまいました。息子は木を二、三度打つと、自分のむこうずねへ斧を打ち込んで、他人に担がれて家に帰ってきました。
これを見て、抜作が「お父さん、僕を森へ行かせて」と言いました。父は「兄たちが怪我をした。お前はよしな。木の切り方を知らないだろう」と返事しましたが、抜作がせがむので、行かせることにしました。
母は水でこねて灰を付けて焼いたお菓子と、酸っぱいビールを持たせました。
森へ入ると、一寸法師が「あなたのお菓子をひとかけ、徳利のものを一口くださいな」と言いました。
抜作は「灰焼きのお菓子と酸っぱいビールだよ。それでよかったら、一緒に食べよう」と返事をしました。
抜作がお菓子を出してみたら、上等なお菓子でした。酸っぱいビールは上等のぶどう酒でした。
食べ終わると一寸法師が「あなたは感心な人だ。だから福を授ける。あそこの老木を切り倒してみなさい。根に何か入ってますよ」と言い、別れていきました。
抜作は、その木を切りました。根の間にがちょうが一羽いました。純金の羽毛を持っています。抜作は、がちょうを抱えて宿屋へ行きました。
宿の主人には三人の娘がいました。娘たちはがちょうを見て、黄金の羽毛が一枚欲しくて仕方ありませんでした。
一番上の娘は「いまに羽根を一枚引っこ抜いてやる」と考えていましたが、抜作が外出したとき、がちょうの翼を掴むと手が鳥のからだへくっついてしまいました。
そこへ二番目の娘が来て、姉に触った途端くっついてしまいました。その次に三番目の娘が来たので、姉たちは「触っちゃ大変。離れて」と言いました。けれども妹にはわからないので、姉たちがそばにいるのだからと、そこへ行き触るとくっついてしまいました。それで、姉妹三人はがちょうのそばで夜明かしすることになりました。
明朝、抜作はがちょうにくっついている三姉妹に頓着せず、がちょうを小脇に抱え、出掛けました。娘たちは、抜作の歩くとおりに歩かなければなりませんでした。
野原の真ん中で牧師と会いました。牧師はこれを見ると、「恥を知りなさい、若い男を追いかけて、それが娘のすることか」と言い、掴んで引き戻そうとしました。ところが、牧師は娘に触れるとべったりくっついてしまい、自分も娘たちを追いかけて歩かなければならなくなりました。
寺男がやってきました。牧師が三人の娘のあとにくっついているのを見て「どこへ行くんですか。今日は赤子の洗礼があるのを忘れないでください」と言いながら、駆け寄るなり袖を掴むとくっついてしまいました。
ここに百姓が二人、畑から帰ってきました。牧師は呼びかけて、自分と寺男を引き離してくれと頼みました。ところが、触った途端に百姓たちもくっついてしまって、がちょうを抱えた抜作のあとに七人が行くことになりました。
抜作は都へ来ました。そこは、ある王様の領地で姫が一人いましたが、むっつりした方でこの姫を誰も笑わせることができませんでした。王様は姫を笑わせる者がいたら、嫁にやるという掟をつくりました。
抜作はこれを知ると、がちょうにつながった者たちを引き連れ、姫の前に行きました。姫はそれを見て、大きな声で笑い出して、笑いが止まりません。そこで、抜作は姫を嫁に欲しいと申し出ましたが、王様はこの婿が気に入らず、口実を作り、まず地下室のぶどう酒を飲み干せる男を連れてこなきゃだめだと言いました。
抜作は、あの一寸法師なら何とかしてくれないかと思い、森へ入って行きました。すると情けない顔で座っていました。心配事でもあるのか聞いてみると「喉がからっからで渇きがとまらない」と答えました。
「それなら、付いてきて。嫌と言うほど飲ませてあげる」と抜作は言いました。
抜作は一寸法師を王様の地下室へ連れて行きました。並んでいる大樽の上を這いずり回って、飲んで飲んで日の暮れないうちに地下室にあるだけのぶどう酒を飲み干してしまいました。
抜作はまた嫁に欲しいと言い出しました。けれども王様は、皆が抜作と呼ぶこんなみっともない小僧に大事な娘をさらわれるのは業腹でならないので、また、パンの山を平らげる男を連れてこなくてはだめだと言いました。
抜作は森へ行きました。男は機嫌の悪そうな顔をして座っていました。
「わしはパンを食べたが、こう腹が減っては何の足しにもならない。腹は空っぽのままだ」と言いました。
抜作はこれを聞くと「付いてきなよ。嫌って言うほど食えるぞ」と言いました。
王様は国中のパン粉を集めて、大きなパンの山を焼かせておいたのですが、森から来た男は、その山の前に立ち、パクパク食べ始め、一日で山が跡かたもなくなってしまいました。
抜作はまた、嫁に欲しいと言いました。三度目ですが、王様はまた逃げ道を探し、陸でも水の上でも走れる舟が必要だと言い、「その船を乗りつけてきたら、娘をあげよう」
抜作は森へ入りました。一寸法師の爺さんが座っていて「あなたのためを思って酒を飲んだり、パンを食べたりした。ついでにその舟もあげますよ。元はと言えば、あなたが私に情をかけてくれたからです」と言いました。
それから陸でも水でも走る舟を抜作にあげました。これを見ては、王様も姫をやらずにはいきません。結婚式が行われ、王様が亡くなったあとは、抜作が国を受け継いで長い間、妃相手に何不足なく世を送りました。
【ひとりごと】
この物語も「賢さ」よりも「誠実さや思いやり」を高く評価していますね。「情けは人の為ならず」という考えがぴったり当てはまります。
気になったのは、がちょうと、がちょうにくっついた人たちはどうなったのだろう。
