完訳グリム童話集(二)金田鬼一訳』その73
『千びき皮〈KHM65〉』
あらすじ(要約)
昔、王様には黄金色の髪の妃がいて、世界中探しても同じくらい美しい人はいませんでした。
ところが、妃は病にかかり、王様に「私の死後、結婚するなら私と同じくらいきれいで、黄金色の髪の方でなければだめです」と言い、王様が約束すると亡くなりました。
やがて相談役たちが「王様は結婚しなくてはいけない」と言い出しました。そこで、亡くなった妃と同じ美しさの花嫁を探しますが、どこを探しても見つかりません。
王様には姫がいて、亡母にそっくりで同じ黄金色の髪でした。娘が妃にそっくりなことに王様が気付くと、姫が恋しくなりました。
王様は相談役たちに「娘と結婚する」と言いました。
相談役たちは「父親が娘と結婚するのは神様が禁じています。国も滅びてしまう」と言いました。
娘は、父親の決意を知ると恐れおののきました。姫は父に「望みを叶える前に、三かさねの衣装が欲しい。一かさねは太陽のような黄金の光、一かさねは月のような銀の光、一かさねは星のように輝くもの、この三かさねが欲しい。それには国にいる動物全部の皮を少しずつもらわなくてはなりません」と言いました。
娘は無理を言い、父に考えを捨ててほしい、と考えたのです。
けれども、王様は三かさねの衣装を織ることを命令しました。猟人たちは動物の全てを捕まえ皮を剥ぎ取り、千種類の毛皮の外套が仕立てられたのです。
王様は外套を姫の前に広げ「明日は婚礼だ」と言いました。
王女は逃げ出す決心を固めました。真夜中に起き、黄金の指輪と小さな黄金の糸くり車、糸巻きを手にとり、三かさねの衣装は胡桃の殻にしまって、あらゆる種類の毛皮の外套を着て、顔と手を煤で真っ黒にしました。
御殿を立ち去り夜通し歩き、森へ入りました。そして疲れて、木の洞に入り眠ってしまいました。
日中になってもまだ眠っていました。たまたまこの森の持ち主である王様が狩猟をしていました。犬たちがその木にくると、吠えたてました。王様は猟人に「何が隠れているか見てこい」と言いました。
猟人は「奇妙な動物がいます。千通りの毛皮に覆われています」と言いました。
「生け捕りにできるか試してみろ」
猟人たちが娘を掴むと「私は父母に捨てられた寄るべない子供。哀れに思って一緒にお連れください」と叫びました。
猟人たちは「千びき皮、お前は台所で役に立つだろう」と言い、城へ連れ帰りました。
城に着くと物置部屋をあてがって「毛皮こぞうよ、お前の部屋だ」と言いました。それから台所にやられ、薪や水を運び、下等な仕事は何でもやりました。千びき皮は、長い間惨めな生活をしていました。
ある時、城でお祝いごとがありました。娘は料理番に「上へ行って見てきていいですか」と言うと、料理番は「いいよ、30分で戻ってきて」と言ってくれました。
千びき皮は自分の部屋に入ると、毛皮を脱いで、顔と手から煤を洗い落とすと、美しい姿が現れました。そして胡桃の殻を開け、太陽のように輝く衣装を取り出しました。仕度をして娘は宴会へ上がっていきました。
すると王様がやってきて、手を差しのべ、こんな美しい人は見たことがないと考えながら、娘を踊りの相手にしました。
ダンスがすむと、王様が辺りを見たときには娘は消えていました。
娘は物置部屋へ駆け込んで衣装を脱ぎ捨て、顔と手を黒くし、毛皮の外套を着て、千びき皮になりました。
台所へ入り、仕事に取り掛かろうすると、料理番が「王様のスープを作ってくれ。俺も上に行って見てくるよ。だけど、髪の毛を入れるなよ」と言いました。
千びき皮はパン入りスープが出来上がると、物置部屋へ黄金の指輪を取りにいって、これを盛り付け皿の中に入れました。
王様はスープを食べ、こんなにおいしいのは味わったことがないと思いました。ところが、皿を空にすると黄金の指輪が見えました。王様は料理番に来るように命じました。料理番は驚き、千びき皮に「お前がスープに髪の毛を落としたんだ」と言いました。
料理番が来ると、王様は「誰がスープを作ったのだ」と尋ねました。
「私が作りました」
「それは違う。いつもとは作り方が違ってずっとおいしくできている」
料理番は「実は、毛皮こぞうが作りました」と答えました。
「お前はさがって、そやつをここへよこせ」
千びき皮が来ると、王様は「何者だ、お前は?」と尋ねました。
「私は父も母もいない哀れな子どもです」
「何のために城におるのか」
「私は何の役にも立ちません。靴を頭に放りつけられるぐらいが取り柄です」
「スープの中にあった指輪はどこから手に入れた?」
「指輪のことは何も知りません」
王様は何も知ることができず、娘を下がらせるしかありませんでした。
また宴会があって、千びき皮は料理番に見に行かせてほしいと頼みました。
「30分で戻ってきて王様の好きなパン入りスープを作ってくれ」
千びき皮は自分の小部屋に行き、体を洗い、胡桃の中から月のように銀色に輝く衣装を取り出し着ました。
娘は上がって行くと、王様はまた会えたことを喜びました。その時ダンスが始まったので、二人は踊りました。しかし、ダンスが終わると、娘はまた姿を消しました。
素早く消えたので、王様はどこへ行ったのかわからなかったのですが、娘は自分の小部屋で毛皮こぞうになって、パン入りスープを用意するため台所に入りました。
料理番が上に行った間に、娘は小さな黄金の糸くり車を取り出し、皿の中に入れスープを盛りました。
王様はスープを食べると、おいしかったので料理番を呼び出しました。料理番は同じように千びき皮がスープを作ったと言いました。千びき皮を呼ぶと、また同じことを答えるだけでした。
王様が三度目に宴会を開いたときも前と同じでした。
料理番はまた娘を出してやりました。今度は、娘は星のように輝く衣装を着て、広間へ入りました。
王様はまた娘を相手に踊りながら、今日が一番美しいと思いました。
王様はダンスの最中に、娘に気付かれないよう指に黄金の指輪をはめ、ダンスも長く続くよう言いつけていたのです。ダンスが終わると、王様は娘の手をしっかり握りましたが、娘はふりほどいて、人混みの中に消えました。
娘は自分の部屋に駆け込みましたが、30分以上たったので、衣装を脱ぐ暇もなく、毛皮の外套を羽織り急いだので、煤も塗りきれず、指が一本だけ白いままでした。
千びき皮は、王様にパン入りスープを作り、料理番がいなくなると、その中に黄金の糸まきを入れました。
王様は皿の底の糸まきを見つけて、千びき皮を呼び出しました。すると、白い指が見えて、ダンスの時にはめてやった指輪も見えました。王様は娘の手を握って逃がさないようにしました。
娘は引き離して跳び出そうとしたら、毛皮がはだけて星の衣装が光って見えました。王様はその外套を掴んで脱がせました。そうすると黄金色の髪の毛があらわれました。娘の立ち姿の美しいこと。煤と灰を拭き取ると、この世で見たことのない美しい人でした。
王様は「お前は私の新妻。もう決して離れることはない」と言いました。それから結婚式が行われ、二人は死ぬまで楽しく暮らしました。
【ひとりごと】
現実でもこんな親はいるかもしれませんね。
普通は娘の成長を喜びながら、亡き妻の面影を追うことはあるでしょう。
自分の尊厳を守るために逃げることは大切ですね。
