『完訳グリム童話集(二)金田鬼一訳』その49
『青ひげ』
あらすじ(要約)
昔、森の中に一人の男が暮らしていました。男は息子を3人、美しい娘を1人持っていました。
ある時、黄金の馬車が家の前にとまると、王様が降り立ち、お前の娘をわしの妻にくれないかと頼みました。
家の主人は、幸運が舞いこんだと喜び、お受けしました。この婿は、真っ青の髭が生えているだけが玉にきずで、何一つ欠点がありませんでした。ですが、この髭は何回見ても恐ろしくなるのです。
娘も青い髭を怖がり、嫁になるのは嫌だと駄々をこねましたが、父親に説き伏せられ、嫁に行くことになったのです。けれども、やはり薄気味悪いので、出掛ける前に3人の兄に「あたしが大きな声を出すのが聞こえたら、すぐに助けに来てちょうだい」と頼みました。
兄たちは約束し、妹にキスをしました。相談が済むと、娘は青ひげの馬車に乗って出掛けました。
王様の御殿に入ると、何もかも煌びやかなこと。お妃の望むことは何でも叶いました。これで王様の青い髭を見慣れれば、こんなに幸せなことはなかったのですが、この髭ばかりは見るたびにぎょっとするのです。
こんな暮らしが続いたある時、青ひげが「わしは大旅行に行く。ここに屋敷中の鍵があるから、どこでも見学して差し支えないが、この黄金の鍵の部屋だけは立ち入ることはできない。もし開けたら命はないぞ」と言いました。
お妃は鍵を受け取り約束しました。青ひげが出掛けた後で部屋を順に開けると、たくさんの宝物が目につきました。
これで残っているのは、開けてはいけない部屋だけですが、この部屋に限って鍵が黄金なのです。この中には一番価値のあるものがしまってあるかもしれない。
とうとう我慢できなくなって、お妃は黄金の鍵を持ってその部屋へ行きました。
「開けても誰にも見られやしない。ひと目覗くだけ」と言いながら、鍵を回しました。すると、血の川がこちらへ流れてきて、壁には死んだ女がいくたりもぶら下がっていました。その中には、もう骸骨だけになっているのもあります。
お妃は戸を閉めましたが、差し込んであった鍵が飛び出し、血の中へ落ちました。それを拾い上げ、血を拭き取ろうとしましたが、だめなのです。片側を拭いたと思うと、裏側へ出てきます。一日中やってみましたが、血のしみは落とすことができないのです。日が暮れて、鍵を乾草の中に突っ込んで、血を吸い取らせることにしました。
翌日、青ひげが帰ってきました。お妃を見るなり、鍵を出してくれと言いました。
お妃はどきどきしました。鍵を残らず出して、黄金の鍵のないことに気づきませんようにと思っていました。
けれども、青ひげは「秘密の部屋のはどこにあるの?」と言って、お妃の顔を見ました。
お妃は赤くなって「あれは上の階にございます。明日探します」と返事しました。
「今すぐがいい。今日いるのだから」
「本当は乾草の中で失くしたんですの。よく探してみなくてはなりません」
「なくしたのではない」と青ひげは怒りました。「血のしみを吸い取らせようと、乾草の中へ突っ込んだのだ。命令に背いて、あの部屋に入った何よりの証拠だ。今度はあなたがあそこに入る運命だ」
お妃は鍵を取りにやらされました。その鍵には血のしみがまだたくさんついていました。
「さあ死ぬ覚悟をしなさい。今日死ぬのだ」
青ひげは大きな出刃包丁を持ってきて、お妃を入口の間へ連れ出しました。
「死ぬ前にお祈りだけさせていただきたいです」とお妃が言いました。
「では行っておいで。大急ぎだぞ」
お妃は階段を駆け上がって「お兄さん、来てちょうだい。助けて」と窓から頭を出し声を張り上げました。
その時、兄たちは森の中でぶどう酒を飲んでいましたが、一番下の弟が「妹の声が聞こえたような気がするぞ。助け船だ」
3人とも馬へ飛び乗り駆け出しました。
「どうだ、もうじきおしまいか」と青ひげが呼び立てます。声の間に出刃包丁を研ぐ音が聞こえてくるのですが、外を見ると、牛や羊がやってくるように遠くから砂煙が押し寄せて来るばかりでした。
お妃はもう一度、声を振り絞りました。「お兄さん、来てちょうだい。助けて」
そこへまた青ひげの呼び立てる声がします。
「早く来ないと連れに行くぞ。出刃は研ぎ終わったぞ」
お妃はまた外を見ました。兄3人が野原を馬で駆け抜けてくるのが見えました。お妃の命は消えかかっています。
これで3度目「お兄さん、来てちょうだい。助けて」と死に物狂いの声を出しました。
その時、末の兄はすぐ近くに来ていて「安心しろ、もう一息だ。すぐ行ってやる」という声が聞こえました。
そこへ青ひげがまた怒鳴りました。
「もう待ってはおれん。来なければ連れにいくぞ」
「もうちょっと、兄三人のお祈りが済むまで」
そんなことは耳に入れず、青ひげは階段を上がって来て、お妃を下へ引きずり下ろしました。髪の毛を鷲掴みにして、出刃包丁を心臓へ突き立てようとしたときです。
兄3人が入口の戸を叩き壊し中へ入ってきて、お妃を青ひげの手から取り返して、剣を抜き、青ひげを斬り倒しました。
青ひげは血の部屋に運び込まれ、今まで殺した女たちの間へ吊るし上げられました。
兄たちは大事な妹を家に連れ帰り、青ひげの財産は残らず妹のものになりました。
ひとりごと
この物語は厳密にはペローのフランス童話で『まっしろ白鳥(フィッチャーの鳥)』と似ていて、第二版ではグリム童話から削除されています。
短い物語に 「自分ならどうするか」「何を信じるか」を考えさせられる点がグリムの魅力ですが、ここでは「好奇心には責任が伴う」そして「約束は守る」ということの大切さがあらわれていますね。
