『完訳グリム童話集(一)金田鬼一訳』その19
『子どもたちが屠殺ごっこをした話』第一話・第二話
【あらすじ(要約)】
第一話
西部フリースランド(オランダ)のフラネッケルという小都会で五~六歳くらいの男女の子どもたちが遊んでいました。
やがて子どもたちは役割を決め、一人の男の子に、お前は牛や豚をつぶす人、またもう一人の男の子には料理番、またもう一人の男の子には豚だよと言いました。
それから女の子にも役をつくり、一人は料理番、もう一人は料理番の下働きにしました。この下働きは腸詰をつくるときに豚の血を容器に受ける役目です。
役割を決めると、豚をつぶす人は豚役の男の子につかみかかり、ねじ倒し、小刀で喉を切り裂き、料理番の下働きの子は容器で血を受けました。
そこへ議員が通りかかり、このむごたらしい様子を見たので、豚をつぶす子を捕らえて、市長の家に連れて行きました。市長は議員を残らず集めました。
議員たちは一生懸命相談しましたが、男の子をどう処分していいか見当がつきません。子ども心でやったことであることがわかっていたからです。
ところが議員の中の賢い老人が、それなら裁判長が片手にリンゴを、もう片方の手にグルテン銀貨を持って、両手を子どもに突き出し、もし子どもがリンゴを取れば無罪、銀貨を取れば死刑にすればよい、と知恵を出しました。
そのとおりにすると、子どもは笑いながらリンゴを掴みました。それで子どもは罰を受けずにすみました。
第二話
あるとき、お父さんが豚をつぶすところを子どもたちが見ました。
やがてお昼過ぎになり、子どもたちが遊びたくなると、一人の子がもう一人の小さな子に、「お前、豚になれ。僕は豚をつぶす人になる」と言って、小刀(ナイフ)を手にとるなり、弟の喉を突きました。
お母さんは、上の部屋で赤ちゃんをたらいでお風呂に入れていましたが、子どものけたたましい声を聞き、駆け下りてきました。
そしてこの様子を見ると、子どもの喉から小刀を抜き取り、腹立ちまぎれにそれを豚のつぶし手だったもう一人の子の心臓へ突きたてました。
それから、たらいの中の子はどうしてるかと思って戻ると、赤ちゃんは溺れ死んでいました。
これが原因で、お母さんは心配がこうじて、やぶれかぶれになり、首を吊ってしまいました。
お父さんが畑から帰ってきました。そしてこの有様を見て、すっかり陰気になり、それから間もなく死んでしまいました。
【ひとりごと】
この物語はKHM番号が付されていません。とても短い物語です。
いつもは悪人への罰が残酷なときもありますが、今回は残酷さだけがフォーカスされていますね。
一話目の裁判は、銀貨とリンゴの選択。罪の意識と償いを子どもの心の透明度で量ったのか。何ともわかりません。
二話目は、不幸の連鎖で最終的には一家全員が死んでしまいました。母親の行動はあり得るのでしょうか。
二話とも「死んだ」というだけで、感情などは描かれていません。ここに感情がドロドロと書かれていたら童話ではなくなるでしょうね。
グリムには困難を乗り越えて主人公が幸せになって、悪が断罪される。喜劇もあれば残酷な悲劇な物語もある。でもこの残酷さは感情が描かれていないのが救いです。