『完訳グリム童話集(二)金田鬼一訳』その55
『めっけ鳥〈KHM51〉』
【あらすじ(要約)】
昔、山林の番人がいました。狩りに森に入ると、喚く声が聞こえました。その声は小さい子供のようでした。声のする方へ行ってみたら、木の高いところに子供が座っていました。これは、母親が子供と木の下で寝込んでいたのを鷲か何かが膝にいる子供を見つけ、さらってこの木の上に置いたのです。
山番は子供を降ろし、家に連れて帰り、レンぼうと一緒に育ててやろうと考えました。
子供二人は大きくなりました。木の上で見つけた子は、鳥がさらってきたので、「めっけ鳥」と名がつきました。めっけ鳥とレンぼうは、大の仲良しでした。
山番の家に婆さんの料理人がいました。ある晩、手桶を2つ持ち出し、水を運び始めました。何回も井戸端へ行くのです。
レンぼうはこれを見て「サネばあ、どうしてそんなに水を運ぶの」と言いました。
「誰にも言わないなら、教えてあげるよ」
レンぼうは誰にも言わないと言うと、婆さんは「明朝、だんなが狩りに行ったら、この水を沸かして、釜が煮えくり返ったら、めっけ鳥を中へ入れ煮てやるのさ」と言いました。
あくる朝、山番は狩りに出掛けました。寝床の中でレンぼうがめっけ鳥に「あんたが私を見捨てなきゃ、私もあんたを見捨てやしないよ」と言いました。
めっけ鳥は「いつまでも今と変わりないよ」と言いました。
これを聞いてレンぼうが言いました。「サネばあが、夕べ手桶で水をたくさん家へ持ち込んだのよ。どうしてそんなことするのって聞いたの。そしたら、明日の朝、お父ちゃんが狩りに行ったら、釜に湯を沸かしてめっけ鳥ちゃんを放り込んで、煮ると言ったの。だから、早く起きてどっかへに逃げましょう」
それで、子供二人はどこかへ行ってしまいました。
釜の湯が煮え立つと、料理人の婆さんはめっけ鳥を連れてきて釜の中へ放り込むため寝室に行きました。しかし、子供は二人ともいなくなってました。
婆さんは「追いかけて行ったら引き戻せるかもしれん」と独り言を言いました。
そこで婆さんは、召使いの男3人を使いに出し、子供たちに追いつくよう言いつけました。
子供たちは森の入口に座っていましたが、下男3人がかけてくるのを見て、レンぼうがめっけ鳥に「あんたが私を見捨てなきゃ、私もあんたを見捨てやしないよ」と言いました。
すると、めっけ鳥は「いつまでも今と変わりないよ」と言いました。
それを聞くとレンぼうが「あんたはバラの幹になって。私はバラの花になって、幹の上にくっつくわ」と言いました。
下男3人は森の入口へ来ましたが、バラの木があってかわいい花が一輪くっついているだけで、子供たちはどこにもいません。
「ここじゃ、どうしようもないね」下男どもは言って、帰って料理番の婆さんにバラの花が一輪だけで、どこを探しても見えなかったと言いました。
すると、婆さんが叱りつけました。「お前たちの脳みその足りなさには呆れる。そのバラの木を切って、花をちぎって持ってこなきゃだめじゃないか。すぐやりな」
下男たちはまた出て行きました。
子供たちは下男たちがやってくるの見て、レンぼうが「あんたが私を見捨てなきゃ、私もあんたを見捨てやしないよ」と言いました。
めっけ鳥は「いつまでも今と変わりないよ」と言いました。
すると、レンぼうが「教会になって。私はシャンデリアになる」と言いました。
やがて下男3人が来てみると、教会とシャンデリアがあるだけです。「こんなとこで何ができるんだ。うちへ帰ろう」と話し合いました。
帰ってくると、婆さんが見つからなかったのかと聞きました。教会だけがあったきり、中にはシャンデリアがあったっけ」と男どもが言いました。
「おまえたち、ばかだねえ」と婆さんが罵りました。「なぜ、教会をぶち壊して、シャンデリアを持ってこなかったんだい」
今度は婆さんが腰を上げて、下男3人を連れて、子供たちを探しに行きました。子供たちは下男3人がやってくるのを見ました。婆さんはその後から歩いてくるのです。
これを見てレンぼうが言いました。「あんたが私を見捨てなきゃ、私もあんたを見捨てやしないよ」と言いました。
めっけ鳥が言いました。「いつまでも今と変わりないよ」
レンぼうが「池になって。私は鴨になって池に浮いてる」
婆さんがやってきて池を見ると、池の上の橋のように腹ばいになり、池を飲み干そうとしました。すると鴨が素早く泳いできて、くちばしで婆さんの頭を咥えて水の中へ引っ張り込みました。魔法使いの婆さんは溺れ死んでしまいました。
子供たちは家へ帰りました。心から喜びました。このふたりは、死んでないとすれば、まだ生きていますよ。
【ひとりごと】
鳥がさらってきたから「めっけ鳥」と名付けるのもユニークですね。
完訳版には「レンぼう」と書かれていますが、他では「レンヒェン」「リナ」という名になっていますね。女の子のようです。
レンぼうは、勇敢ですね。困難に直面しても強い絆と友情で乗り越える。グリムの普遍的なテーマですね。
気になるのは、二人とも化けられること。父親は狩りに出たきりなので、どうだかわかりませんが、魔法使い一家なのか、と思ったりもします。
