【あらすじ&ひとりごと】
西加奈子さんの作品を初めて読んだのは、直木賞を受賞した『サラバ』でした。そのときは、とても衝撃を受けました。
西さんの文章の深さと重さを本作からも感じました。
アメリカ同時多発テロやシリアの内戦、そこを逃れる難民男児の溺死など、世界各国で起こった事件を背景に人間のアイデンティティを問い続ける物語です。
主人公・ワイルド曽田アイは、アメリカ人の父と日本人の母との間に養子として育てられる。
「アイ」という名は、「愛」と「Ⅰ(自分)」の意味を込めて名付けられた。
アイは、聡明で繊細がゆえに、自分の生まれた境遇に罪悪感を抱きながら育つ。
アイは世界で起きた悲惨な事件の犠牲者の数をノートに書き綴り、なぜ自分が恵まれた環境に選ばれたのか、自分はだれかの幸せを奪っているのか、と自分の幸せな境遇に苦しむ。
そんなとき、アイは親友と出会い、愛する人とも出会い家族になる。
そして、「世界にアイは存在するのか」を求め、いろいろな苦しみを経験し成長していく。
彼女をこんなにも繊細にさせたのは、世界各国で起こる紛争、貧困、そこで生育される環境が背景にあるのかと思うと胸が苦しくなります。
世界にはこういった子どもたちが、数え切れないほどいる事実を思うと、憤りを超えて悲しくなります。
そんな現実の中に、西さんの訴える深く重く、大きく包み込んでくれるような文章は、何というか、真っ直ぐな愛情というものが言葉として感じられます。
自分の存在意義、自分に自信がなく、生きる意味を見出せない人たちの背中を押してくれるような、そんなやさしさに溢れていました。