ふでモグラの気ままな日常

読書をこよなく好む早期退職した元公務員が、読んだ本の紹介を中心に、日頃気づいたことや感じたことなどについて、気ままにひとりごとを発信する雑記ブログ

【読書】貴志祐介『秋雨物語』ー 絶望と業が交錯する秋の怪異 ー

【あらすじ&ひとりごと】

 今回読んだのは、貴志祐介さんのホラー小説『秋雨物語』(2022)

 本作は、「餓鬼の田」「フーグ」「白鳥の歌」「こっくりさん」の4つの物語で構成される短編集です。

 「秋雨」というタイトル。しとしとと降り続く様が不穏な空気をもたらし、心に暗い余韻を残す作品です。

 

〇餓鬼の田

 ある企業の社員旅行で訪れた「餓鬼の田」。前世の業が現世に影響しているという因果応報を描いた物語。

 常に飢えと乾きに苦しむ存在という餓鬼。この”餓鬼”に呪縛され、宿命と業の恐ろしさが静かに描かれ、救われない絶望感が心に残ります。

 日常に日々の積み重ねがどれほど重く影を落とすのかを考えさせられる一編。

 

〇フーグ

 失踪した作家・青山黎明が残した原稿「フーグ」。それは、解離性遁走を示す言葉で、彼自身が不可解な体験をした「テレポーテーション(瞬間移動)」のような現象の記録だった。

 青山はある瞬間、現実から切り離された異様な空間へ飛ばされる。そこはすべて曖昧な場所。何度も引きずり込まれ、やがて日常との境界が崩れていく。そして青山は完全に消える。ただの怪奇譚に終わらない深い恐怖を感じます。

 

〇白鳥の歌

 幻のSPレコードに収録された歌声。それを聴いた者は強烈な感動と同時に精神の均衡を崩していく。

 伝説の歌手ミツコの声には、人を魅了し破壊する何かがあった。物語は、音楽という芸術がもつ魔性を描ききって終わる。

 音は目に見えないため、想像が膨らみ恐怖が増幅されます。芸術と狂気は隣り合わせ。静かな話なのに読後に耳鳴りのような余韻が残る感覚。

 

〇こっくりさん

 人生に行く詰まった人々が、「こっくりさん」に最後の選択を委ねる物語。それは、子どもの遊びではなく、決断を迫る儀式。

 答えを自身ではなく、外部に求めたとき、人は自分の責任から逃げる。そして悲劇が起きる。

 怪異よりも人間の弱さを描いた物語。「自分で決めるべきことの恐怖」から逃げるとき、怪異は入り込む。こっくりさんは霊というより、心の隙間の象徴と思えます。

 

 

 『秋雨物語』は、怪異が主役ではなく、欲望や不条理、魔性、責任といった、人間の内面に結びついていますね。

 読後に残るのは、しとしとと降り続く秋雨のような重さ。やんだはずなのに湿気だけがまとわりつく。それがこの短編集の怖さですね。

 次は『梅雨物語』を読みたいと思います。