ふでモグラの気ままな日常

読書をこよなく好む早期退職した元公務員が、読んだ本の紹介を中心に、日頃気づいたことや感じたことなどについて、気ままにひとりごとを発信する雑記ブログ

【読書】彩瀬まる『嵐をこえて会いに行く』― 会いに行くという選択の大切さ ―

【あらすじ&ひとりごと】

 今回読んだのは、彩瀬まるさんの小説『嵐をこえて会いに行く』(2025)

 彩瀬さんの小説は初めてですが、読み終えたあと、日常的にある人の心の小さな揺れを丁寧に描いた、とても魅力的な作品だなと思いました。

 『嵐をこえて会いに行く』、静かに穏やかに、そして迷わずにひとつを選択できる気持ちにさせてくれるような一冊でしたね。

 

 

 五編が収録されている短編ですが、物語の中心にあるのは「会いに行く」という行為です。

 それはもちろん単に移動するというものではなくて、自身が抱える不安やためらいなども一緒に描かれています。

 

 登場人物たちは、誰かを思う気持ちを持ちながらも、「本当に行っていいのかな」というためらいを自身に問い続けます。

 「嵐をこえてーー」というのは、自身の心の葛藤=嵐をこえるのですね。

 

 特に心に残ったのは、会いに行くことですべてが解決するわけではない、というところ。

 劇的な再会や、理解し合う、そんな普通にわかりやすい救いのような物語は用意されていません。

 それでも、嵐をこえて会いに行きます。その選択こそに意味があるのだと静かにこの小説は伝えてくれていますね。

 

 読みながら自分自身の経験を重ねてしまいます。それは、彩瀬さんの文章のせいかな。あえて多くを語らず、感情を抑えているような表現。

 ためらって会いに行けなかった、そして後悔。そんな自分が残した後悔の思いが自然と浮かび上がってきますね。

 

 本作のタイトルは、勇気・決断を思わせてくれますが、その先に待つものは必ずしも希望といえるものではないかもしれない、そんな意味も少しは含んでいるのでしょう。

 それでも人は、だれかに会いに行くものなんですよね、それが人間なのかな。そして、人の誠実さとそこにセットになった不器用さを描いているのが、この小説の一番のやさしさなんだなあと思いますね。

 

 派手な余韻はないけど、心の奥に静かに残り続ける感覚があります。それをはっきり言葉として表そうとするのは難しいけど、これから自身の行動に、確かに何かをもらったような読後感でした。