ふでモグラの気ままな日常

読書をこよなく好む早期退職した元公務員が、読んだ本の紹介を中心に、日頃気づいたことや感じたことなどについて、気ままにひとりごとを発信する雑記ブログ

【読書】『あさとほ』新名 智 著

【あらすじ&ひとりごと】

 2021年に『虚魚』(そらざかな)で横溝正史ミステリ&ホラー大賞を受賞された新名智さんの2作目『あさとほ』を読みました。

 『虚魚』は、ホラー・ミステリでした。本作も同様にホラー+ミステリ、そして平安文学を題材にした幻想的なものでした。

 

 幼い頃の夏休みのある日、双子の姉妹・夏日と青葉、幼馴染の明人の三人で山へ行こうということになった。

 山の中に小さな建物があり、その中を三人は探検するが、はぐれるはずもない小さな部屋なのに青葉の姿が見えなくなる。

 部屋の中央に吊るされた半透明の布の向こうに人影を見るが、青葉は溶けるように消えてしまった。

 その後、彼女を覚えているのは、消えた瞬間を見た夏日と明人だけで、両親を含めた誰もが記憶から消えていた。

 青葉が存在したことを忘れられないまま大学生になった夏日は、卒論の指導教授が失踪したことを知らされ、教授が平安時代に存在したが、失われてしまった「あさとほ」という物語を調べていたことを知る。

 夏日は教授の行方と散逸した物語「あさとほ」を追う中、あの事件以来となった明人と再会し、明人が青葉の行方を今も調べていることを知る。

 そして共に調査し、その物語が青葉の消えたことに関係していることがわかり、「あさとほ」の正体へと辿り着く。

 

  散逸物語の「あさとほ」。写本されずに消えてしまった物語。 散逸という言葉は初めてです。平安時代に実在したが、写本されずに現代に伝わらなかったという物語は多いようですね。

 著者自身が平安文学を専攻されていたので、さすがに詳しい。幻想的で儚さを感じるものでした。

 

 一方では、展開の変化や、存在した人間が記憶から消され、いないものになっていたり、人が入れ替わっていたりと、パラレルワールドも感じさせながら、何が現実なのか少しややこしい。

 でも、そこが狙いなのでしょう、どれが現実かは、読み手の解釈によるものなのかな。

 

 新名さんの作品は、背筋も凍りつく、、ような、どホラーではありませんが、それが魅力だと思うので、後味も悪くない。

 「ドキドキ」が苦手なホラー好きな方にはいいかもしれませんね。