ふでモグラの気ままな日常

読書をこよなく好む早期退職した元公務員が、読んだ本の紹介を中心に、日頃気づいたことや感じたことなどについて、気ままにひとりごとを発信する雑記ブログ

【読書】河邉 徹『蛍と月の真ん中で』

【あらすじ&ひとりごと】

 今回読んだのは、川邉徹さんの小説『蛍と月の真ん中で』

 自然と人とのつながりによって、心の再生を静かに描く物語です。

 

 

 主人公・大野匠海は大学3年生、都内の大学に通っている。

 かつて亡父が写真館を営んでいた影響で写真家を志して、写真学科に在籍し学んでいる。

 しかし、匠海は実家を出て、母親を頼らず、学費と生活費のために授業以外の時間はアルバイトに追われ、心身が疲弊していく。

 そんなとき、ある出来事が起こり、授業料が支払えなくなり借家も解約し大学を休学することになる。

 行く当てもなく匠海が向かったのは、長野県辰野町。その地は、かつて父が残した「蛍」の写真を撮影した場所だった。

 

 

 匠海が出会った辰野町の人たちは、地元の人、Iターンの人、様々な事情を抱えた人たち。彼らと交流し、美しい自然の中で時間は緩やかに流れ、都会の生活では得られなかった人々のぬくもりが、匠海の心を溶きほぐしていきます。

 そして、人生を歩むこととはどういうことなのか、自身の生き方を見つめ直し、大切なことに気付いていきます。

 

 自然との共生、人と人とのつながりが、人の心を癒し生きる力になり得るのかが、静かに描かれていて、追い詰められていた匠海の自然体で暮らしていく変化が読み手の心に沁みます。

 強い意志や目標、成功などではなく、自分のペースで居場所を見つけ、やりたいことを見つける。そういった生きることの柔軟さが、今を生きる若者、進むべき道の再選択を考える人にとって必要なんだろうな、と思います。

 

 

 著者の川邉さんは、元々はメジャーデビューしているバンドのドラマーで作詞を担当しているとのこと。

 文章が写真のような感覚(人に佇む光や影、空気、色、温度感など)を感じるので、写真家なのかと思いましたが、多才なのですね。本作の魅力のひとつです。

 

 人とのつながり、居場所、日常におけるささやかな選択。これらが、生きていく中で確かな影響があることを静かに教えてくれます。

 自分の生き方や価値観を見つめ直したくなる作品です。