ふでモグラの気ままな日常

読書をこよなく好む早期退職した元公務員が、読んだ本の紹介を中心に、日頃気づいたことや感じたことなどについて、気ままにひとりごとを発信する雑記ブログ

【読書】砥上裕將『一線の湖』

【あらすじ&ひとりごと】

 今回読んだのは、水墨画家でもある砥上裕將さんの小説『一線の湖』

 『線は、僕を描く』の続編であり、水墨画を通して、主人公・青山霜介の成長と葛藤を描いた作品です。

 

 大学3年生となった青山霜介は、水墨画家としての道を歩みつつも、卒業後の進路に悩む。

 ライバルである師匠・篠田湖山の孫の千瑛(ちあき)は、2年前の湖山賞公募展で湖山賞を最年少で受賞してから、順調に活躍する一方、霜介は公募展で翠山賞を受賞するも新たな表現が見つけられず、焦りを感じている。

 そんな中、兄弟子・西濱湖峰に代わり、小学1年生に水墨画を教えることになる。子どもたちとの交流を通じて、自分の過去や未来と向き合い、霜介は成長していく。

 そして、師匠・湖山が霜介に「あるもの」を託す。

 

 

 本作は、前作『線は、僕を描く』の続編でありながらも、単なる続きではなくて物語としての完結のように感じますね。

 霜介が小学生との交流を通じて成長していく過程が、心の動きとともに繊細に描かれていて、感動的でした。そして、水墨画の世界が美しく描かれていて、読後感も爽やかでしたね。

 

 水墨画は「線」の芸術。画仙紙の余白(描かれていない部分)にも意味があるとされています。霜介が水墨画を通じて自身を見つめ直し、成長していく様子が描かれ、作品の「余白」の美しさと共鳴しているように思います。

 

 師匠・湖山が霜介に託した「あるもの」。

 「欲が出れば線は死ぬ。描こうと意識することで描こうとする意志だけが描かれる。描こうなんて思うな。」

 

 単なる技術やスキルではないということですね。まさに水墨画の「自然体の線」「無心の境地」。欲で描こうとすると魂が失われる。線を描くときは自分を消すことが大事なんですね。とても難しい世界です。

 

 師匠が霜介へ伝えたかった「線の心」の体得。この成長が物語の大きなテーマでした。書き手が水墨画家ならではの、水墨画と物語を融合した爽やかな余韻が心に残る作品でした。

 

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