ふでモグラの気ままな日常

読書をこよなく好む早期退職した元公務員が、読んだ本の紹介を中心に、日頃気づいたことや感じたことなどについて、気ままにひとりごとを発信する雑記ブログ

【読書】『傷口はきみの姿をしている』九条時雨 著

【あらすじ&ひとりごと】

 九条時雨さんの作品『傷口はきみの姿をしている』を読みました。「高校生の心情を繊細に描く」という一文に、どんな青春群像が描かれているのか気になり読んでみました。

 

 私は九条さんという作家さんを知りませんでしたので、巻末のプロフィールを先に見てみると、千葉県出身の方。

 「犬、ブランコ、ベビーカステラが好き」、「創作以外で筆不精をなんとかしないと」など、自己紹介文のようでほっこりしましたが、作品は若者の内に秘める鬱屈としたものが描かれた小説でした。

 

 心に傷を持つ高校2年・卯月遥臣(うづきはるおみ)、通称「ハル」は級友と深く関わりすぎないよう適度に距離をおき、高校生活を過ごしている。そこに同じく心に傷を持つ美しい少女・鷹宮螢(たかみやけい)がハルのクラスに転校してくる。

 ハルと螢は、互いに好奇心を抱き、友人関係を結ぶのだが、そしてそこに隠し事を秘めたクラスメートが次々と彼らの前に現れ、隠された真実をふたりが解き明かしていくストーリーです。

 

 鋭い洞察力があって、高校生とは思えない恐ろしさを感じます。身近にこんな若者がいたらすべてを見透かされそうです。

 読み始めは高校生活の爽やかさはなく、ドロドロとしたものに多少の嫌悪感を感じましたが、若者の心情が繊細に捉えられていて、先が気になり頁が進みます。

 

 結末はどうなるのか、そんな大きな展開に期待をしながら読み進めますが、あっさりと終わりを迎えます。

 少し残念な思いもありましたが、後味の悪さがなくてよかったなという安堵感が残りました。

 私たちの時代と違って、現代の高校生にはこんな複雑な人間模様は普通にあるのだろうなと思いました。