【あらすじ&ひとりごと】
深緑野分さんの作品を読むのは、本作品がはじめてです。
実は数年前、『ベルリンは晴れているか』を書店で手にして、清々しい名前の方だなと思いながら、冒頭を流し読みしたことがあります。
結局購入しなかったのですが、それが深緑さんという作家さんをはじめて知ったときでした。
作家さんの文体や表現はそれぞれで、それが自分の頭にサクサク入ってくる作家さんを好んで読み、なかなか入ってこないものは、ページが進まず敬遠しがちで、読まず嫌いの悪い癖が私にはあります。
これが私の読書の幅を狭めているのでしょう。本作品を読んでそう思いました。
本作品は、本の町と呼ばれる「読長町」を舞台に、町の人たちや町並みが事件によって物語の世界に変わってしまうファンタジー作品です。
読長町には、239,122冊の本が納められる巨大な書庫「御倉館」があり、その管理人を父に持つ御倉深冬が主人公。 本嫌いな高校1年生。
この御倉館は、全国に名が知れ、生き字引と珍重される、書物の蒐集家である深冬の曽祖父・御倉嘉市が設立した。
ある日、御倉館の蔵書の一冊が盗まれてしまう。すると、町の人々は物語の世界へと変貌し、深冬は町の人々を元に戻すために本泥棒捜しに奮闘する。
本作品のタイトルをはじめ見たときは、日常的なミステリー作品と思い込み読み始めましたが、本のストーリー世界が事件をきっかけに現実世界を侵食していくというファンタジー小説でした。
冒険があり、メルヘンチックもありで、ハリーポッターを連想させ、合わせてコミカルさもありますが、壮大さでは少しこじんまりとしているなと思います。
ただ、物語の展開が予測できないところにとてもおもしろさを感じ、終盤はこの世界に完全に入り込んでしまいました。
深冬は、本当は本がとても好きな子だったのに、あるトラウマで嫌いになる。
そして、この事件を機に自分は本が好きだったのだと思い出し、また本を読み始める。
若者が、本嫌いのまま物語が終わるのは寂しいなあと思いながら読んでいたので、読後感はとても明るい気持ちになりました。
角川文庫(2020)