ふでモグラの気ままな日常

読書をこよなく好む早期退職した元公務員が、読んだ本の紹介を中心に、日頃気づいたことや感じたことなどについて、気ままにひとりごとを発信する雑記ブログ

【読書】染井為人『黒い糸』

【あらすじ&ひとりごと】

 今回読んだのは、染井為人さんのホラーサスペンス作品『黒い糸』

 染井さんの作品は初めてです。

 物語が動き出してからの「止まらない」は圧巻でした。序盤の静けさが、一転してざらついた不安に変わり、人間関係が少しずつねじれはじめていく展開には強く吸い込まれます。

 

 平山亜紀は、離婚後、小学6年生の息子・小太郎と二人暮らしをするシングルマザー。結婚相談所でアドバイザーとして働いている。

 ある日、会員トラブルをきっかけに不穏な出来事が次々と起こり始める。

 一方、小太郎のクラスメイトの女児が失踪し、担任の長谷川祐介は対応に追われる中、別の女児・莉世は怪しいと疑う女を指摘する。

 やがて、莉世自身も襲われ、事態は急転し、周囲の人間のそれぞれの過去が複雑に絡み合い、つながっていく黒い糸が明らかになっていく。

 

 

 ストーリーは、亜紀と祐介の視点で交互に描かれます。

 日常の普通の世界に少しずつ違和感が入り込み、狂気となって表れはじめると、誰を信じていいのか不安な気持ちを揺さぶられ続けます。

「次の頁で何が起きるのか」と手が止められませんでしたね。

 本作の恐ろしさは、動機や理由がはっきりしない悪意の存在がいつまでも続いていき、説明のつかない人間の「黒さ」と向き合うからでしょうかね。

 

 そんな中で、読後に感じたのは、ようやく救われたという安堵と、いくつかの「置き去り感」を感じたこと。

 事件の真相が曖昧になっているところもあって、物語は収束しているけど、心理的に未完のような余韻。

 意図的に作者がすべてを説明しないという可能性もあるかもしれませんが、まさに「黒い糸」がまだどこかにつながっているような感じもします。気になる方は、ぜひ手に取ってご確認ください。

 

 そういえば、染井為人さんの『悪い夏』が映画化されていましたね。未視聴ですが、横溝正史ミステリ大賞優秀賞作品ですから、原作は気になるところですね。