ふでモグラの気ままな日常

読書をこよなく好む早期退職した元公務員が、読んだ本の紹介を中心に、日頃気づいたことや感じたことなどについて、気ままにひとりごとを発信する雑記ブログ

【読書】『水を縫う』寺地はるな 著

【あらすじ&ひとりごと】

 寺地はるなさんの作品は、べったこ (id:kuroneko356)さんがたくさん読まれていて、以前から私も読みたいと思っていました。

 物語は日常的なことであるけれど、澄んだ言葉が心の中にあたたかく流れていくようで、とても心に響く清々しい家族小説でした。

 

 本作は、六章から構成され、各章の主人公が切り替わり、家族それぞれの視線で描かれています。

 物語の中心は松岡清澄(高1)。一歳のときに親が離婚し、母と結婚を控えた姉、そして祖母との四人暮らし。
 清澄は、手芸が好きなことで学校で浮いているが、結婚を控えた姉のためにウェディングドレスを手作りしたいと言う。華やかなものが苦手な姉との間でデザインに悩むが、別れた父に相談し、家族をつなぐ絆と自分らしさが築かれていく。

 世の中の当たり前のことに気付き、普通に越えていく家族小説ですが、それぞれ家族が巧みに描かれていて、その苦悩や思いに共感して、家族をつなぐ絆に胸を揺さぶられます。

 清澄くらいの中高生にも読んでもらえればきっと何か気付きを得られるのではないかと思います。

 

 人にはそれぞれ選択肢が与えられていて、もっと自由に自分らしくいられることを選んでいく。

 家族が家族を思う気持ちは、ときには煩わしいこともあるかもしれないけど、思う先はひとつだから、正しいとか間違いとかはないのだと思います。

 でも、祖母が母親(清澄の)に話すくだりで、

明日、降水確率が五十パーセントとするで。あんたはキヨが心配やから、傘を持っていきなさいって言う。そこから先は、あの子の問題。無視して雨に濡れて、風邪をひいてもそれは、あの子の人生。今後風邪をひかないためにどうしたらいいか考えるかもしれんし、もしかしたら雨に濡れるのも、けっこう気持ちええかもよ。あんたの言うとおり傘持っていっても晴れる可能性もあるし。あの子には失敗する権利がある。雨に濡れる自由がある。(113頁)

 

 親は子の人生に介入せず、子の選択を尊重し、それでどんな人生を歩もうとも、子には「失敗する権利」があるということ。

 とは言え、なかなか難しいことかもしれない。けど、とても素晴らしいことですね。

 家族にとっても友人にとっても、その人の選択を尊重してあげることが、その人への一番の愛情なのかもしれません。