【あらすじ&ひとりごと】
出版されてもう4年近くたつ、川上未映子さんの『夏物語』。今頃になってしまったけど、ゆっくりとじっくり読むことができました。
人が生きていく中で、男性がいて女性がいる、そして仕事、出産、家族との生活などなど、自分らしく生きられる時代。
そんな現代において、さまざまな生き方をしていく中で考えさせられる、チクリと心に刺さる作品でした。
大阪から小説家を目指し上京した主人公・夏目夏子。相手がいないのに、自分の子どもに会いたいという密かな思いが芽生えはじめ、パートナーなしの出産を考え始める。そこに精子提供で生まれた、実の父親を探す逢沢潤と出会う。
冒頭から「貧乏とは」云々から始まり、大阪で貧しい子供時代を過ごした夏子は、父親の蒸発、そして夜逃げ、母親と祖母との死別。なんと悲惨な子どもなんだと思いながらも、明るい大阪弁が読み手の気持ちを和らげてくれます。
悲喜こもごもの中に、いのちの誕生についての意味や尊さを考えさせれるもので、とてもよい物語でした。
この物語の内容とは違いますが、私の身近にも事情があって、親が実の親ではないという知人がいます。
終盤に逢沢潤が「僕がずっと思っていたのは、ずっと悔やんでいたのは、父に ー 僕を育ててくれた父に、僕の父はあなたなんだと、そう言えなかったことが」「父が生きているあいだに本当のことを知って、そのうえで、それでも僕は父に、僕の父はあなたなんだと ー 僕は父に、そう言いたかったんです」(516ページ)
そんなくだりを読んで、もちろん親子は血の繋がりだけではないし、生まれてきたことの尊さやその愛情の深さに、ふと知人のことを思い出してしまいました。
実を言うと、私は川上さんの芥川賞作品『乳と卵』を読んでいないので、本作品とつながっていることも読み終わるまで知りませんでした。続けてもう一度読んでみようと思っています。
当然女性に多く読まれていると思いますが、年齢や性別にこだわらず、読んでもらえればきっと心に残るものがあると思います。