【あらすじ&ひとりごと】
今回読んだのは、青山美智子さんの小説『人魚が逃げた』(2024)
本作は銀座を舞台にした五つの連作短編。自分らしく生きるために殻を破る人たちを描いた物語です。
ある週末、銀座で「王子」と名乗る青年が「人魚が逃げた」と言い、人魚を探し歩いている。その様子がSNSで話題となって、街中に広がっていく。
その不思議な騒動の裏側では、恋愛や家族関係、仕事、自分の生き方にそれぞれ悩みや迷いを抱えた5人の男女が人生の節目を迎えていく。
彼らは銀座の街で偶然にも王子と出会い、少しずつ自分自身と向き合うことになる。
この作品に登場する人たちは、決して特別な人ではないんですよね。少し背伸びをしたり、人と比べたり、自分の殻に閉じこもっていたりするんです。でも、王子との出会いで今まで見えていなかった景色や価値観に気付いていきます。
アンデルセンの『人魚姫』を下敷きに、単なる再話ではなく、「本当の自分を隠して生きてないか」と、私たちに投げかけているようです。人魚も王子も人の心の中にある弱さの象徴だったのかも。
銀座の街が舞台というのが、華やかで様々な人が行き交う場所、それぞれの人生が交差する舞台としてよく似合っていましたね。
私も家族が築地の病院に入院しているとき、ぶらぶら歩いて、和光の時計台や歩行者天国の風景を思い出しながら読みました。
青山さんらしく、読み終えたあとには心が少し軽くなり、人にも自分にももう少しやさしくなりたくなるような、そして小さな変化こそが人生にとって大切なんだと思わせてくれる、そんな作品でした。
