【あらすじ&ひとりごと】
森山東さんの作品をはじめて読みました。
本作は、2004年に日本ホラー小説大賞の短編賞を受賞しています。
当時私は、毎年同賞の受賞作を好んで読んでいましたが、森山さん(当時のペンネームh大和王子さん)の作品には気付きませんでした。
森山東さんは、2020年に亡くなっているのですが、受賞後から18年が過ぎる今、本作を読むきっかけとなったのが、私の家族が森山さんと仕事上の知人であり、京都でこの週末に共通の仲間と墓参りをする予定から、供養に読んでほしいと本棚から出されたものでした。
本作は、京都の花街で修業を積む少女が舞妓としてデビューし、30年前に起きたお茶屋での出来事と現在の自分へとつながる恐怖を語る物語です。
そのほか、同様に花街を舞台とした『お化け』、京扇子職人の狂気を描いた『呪扇』の二編が加えられた短編集です。
お見世出しとは、京都の花街で舞妓としてデビューする晴れ舞台のことだそうです。
作品の中には、作者自身と思われる会社員兼作家が登場し、舞妓が語る恐怖話を聞く設定はユニークでしたが、一方でその舞妓の淡々とした一人語りは、柔らかいながらも、かの講談師の一龍斎貞水さんの語りを彷彿させました。
背筋が凍る「恐怖」ではなく、普段ありそうな不思議な出来事、心霊現象ですが、深夜に物音のない、静寂さだけが耳に残る中で読んでいると、自分のうしろを振り返りたくなります。
三編目の『呪扇』は、作者の実家が扇子屋であるため、扇子について詳しく書かれています。
扇骨に若い女性のからだを使い、流れる血によって色染めし呪扇をつくる。
ホラーらしく血なまぐささが漂い、善意から悪意、狂気へと変貌していく内容に、拒絶する気持ちとはやる鼓動が反比例していくようでした。
森山さんの墓参りは、残念ながらコロナ渦で延期となったようですが、また改めて再計画されるでしょう。
私も本棚に並ぶ森山さんが残された作品をすべて読んで、ぜひとも京都を訪れたいです。