【あらすじ&ひとりごと】
今回は、佐野広実さんの『シャドウワーク』
佐野さんの作品を読むのは、『わたしが消える』『誰かがこの町で』に続いて3作目。
とてもテンポのいいソーシャルミステリで、ストーリーの展開が丁寧でどれも読みやすいです。
さて、本作品『シャドウワーク』のテーマは「DV(ドメスティック・バイオレンス)」
冒頭、出刃包丁を手にした男が部屋に侵入、向き合って座る女二人に包丁を振りかざし、ひとりは刺されるも、三人が揉みあいの末、男の左胸に包丁が深く刺し込まれる。
いきなり暴力を超え殺人へとエスカレートした場面からスタート。この事件はどこにつながるのか、二人はいったい誰なのか、そんな疑問を持ちながら読み始めていきます。
暴力夫から命がけで逃げて、江の島を見渡せる場所に建つ一軒家のシェルターにたどり着く紀子。
そこには、同じ境遇の3人の女性がすでに生活していた。あえて姓は明かさず、互いを下の名前で呼び合う、4人の共同生活が始まる。
また、夫婦で警察官でありながら、夫からの暴力を受ける北川薫。
薫は、海岸で発見された女性死体の身元を捜査していくうち、被害者にDV被害の過去があることがわかり、江の島のシェルターへとたどり着いていく。
この二人の女性の視点から交互に物語が展開していきます。
このシェルターでの生活で存在する、あるひとつの「ルール」。それは「持ち回り」という「仕事」。
それが何を意味するのか、「シャドウワーク」というタイトルと、共同生活をする女性たちの様子からも、もしや「持ち回り」とは…と早い段階から気が付いてきます。
夫から逃げても逃げても追われ続け、追い詰められ後がない女性には、最後はこれしかないのかもしれませんね。
離婚したって解決にはならず、DVから逃げられないのなら、自身を守るために殺される前に殺す。そして自分自身で自由を取り返すのだと。
以前、何かで見たけど、全体の女性の30%以上が配偶者から暴力を受けたことがあり、相談件数は8万件以上。しかもこの数字は被害の一部を反映したのみで、実際はさらに多いという闇の深さ。異常な数字ですね。
本作品のように女性たちが自身を守るために犯罪に手を染める。法にも守られない現実では、そうでもしなければ自身の安寧はやってこないのだと、切羽詰まった思いがわかります。犯罪を肯定する訳ではないけど、苦しむ世の女性を考えると否定できない気持ちが強く湧きます。
最後に、事実を知った警察官の薫は、どのような決断を選択するのか。ひとりの被害女性としての自分か、それとも警察官としての自分か。おもしろいところですね。
