【あらすじ&ひとりごと】
今回読んだのは、『スワン』『爆弾』に続いて呉 勝浩さんの『素敵な圧迫』。
ミステリといえばミステリで、文学的な感じも。
本作は短編集で、表題作「素敵な圧迫」と、「ミリオンダラー・レイン」「論リー・チャップリン」「パノラマ・マシン」「ダニエル・《ハングマン》・ジャービスの処刑について」「Vに捧げる行進」の6編を収録。
「素敵な圧迫」
幼い頃から狭い隙間に身をおさめる圧迫感に安らぎを覚えてきた蝶野広美。押入れの隙間に寝転ぶのが密かな楽しみとなった。抱擁に似た素敵な圧迫。
大人になってもその感覚を求め続け、ある日出会った営業マン・風間の抱擁に理想の“圧迫‘’を感じ惹かれるが、風間には婚約者がいた。
広美の叶わぬ願望と執着はしだいにエスカレートしていき、心と行動は制御を失い、圧迫の快楽は破滅の影へと背中合わせになっていく。
「ミリオンダラー・レイン」
三億円事件をモチーフにした作品。社会から疎外された若者が、葛藤しながらも反骨心を抱き、強奪の計画を練るが、皮肉な結末へ。
「論リー・チャップリン」
父親と中学生の息子との対立を描く。コミュニケーションのズレから現れる親子の理不尽と論理の攻防。ユーモアと切実さが混ざり合う作品。
「パノラマ・マシン」
仮想世界を体験することができる謎の装置を拾ったことで、人間の中に潜む邪な心が浮き上がる。こんな便利なものを手に入れたら、人間なんて良いことに使いませんね。
「ダニエル・《ハングマン》・ジャービスの処刑について」
アメリカを舞台にプロボクサーの人生を描いた作品。デビューから連勝を重ねるダニーだが、同じくプロボクサーの弟の八百長試合に巻き込まれ、運命が狂い始める。
「Vに捧げる行進」
コロナ禍の商店街を舞台に、その閉塞感の中で落書きというささやかな反抗が街や人々の心に波紋を広げていく。
現代社会に通じる閉塞感や親子関係、そして欲望への執着、理不尽さ、仮想と現実のズレといったモチーフが共通するストーリーでした。
特に表題作「素敵な圧迫」は、読み始めたらその“圧迫”感に引き込まれます。
「論リー・チャップリン」の親子の論理の攻防もユーモアと切実さで笑いの中に考えさせられるストーリーでした。
ミステリといえばミステリですが、型にハマっていないミステリ。人間描写が純文学寄りのミステリという印象ですかね。
文学とミステリを横断していくような心理サスペンス作品、といったところでしょうか。
