ふでモグラの気ままな日常

読書をこよなく好む早期退職した元公務員が、読んだ本の紹介を中心に、日頃気づいたことや感じたことなどについて、気ままにひとりごとを発信する雑記ブログ

【読書】小川 糸『椿ノ恋文』

【あらすじ&ひとりごと】

 今回読んだのは、小川  糸さんの『椿ノ恋文』(2023)。

 『ツバキ文具店』『キラキラ共和国』に続く、代書屋・通称ポッポちゃんこと、鳩子を主人公としたシリーズ第3作です。

 言葉と手紙を通じて、人と人の心を丁寧に紡ぐ、やさしい物語でした。

 

 

 育児と家事に忙しくしていた鳩子は、子どもたちの小学校入学を機に、代書屋(手紙の代筆など)を再開する。

 夫・ミツローの先妻の子・長女QPちゃんは中学3年生となって反抗期を迎え、鳩子は母娘の関係に悩みながらも、代書屋として様々な依頼を受け、その思いを言葉にし手紙を紡いでいきます。

 

 この物語の重要な軸として、鳩子の先代・祖母のかし子がかつて妻子ある男性と秘めた恋をしていたという事実が、届けられた手紙によって明らかになり、互いが残した恋文から、過去から現在へと繋いでいき、鳩子の心を揺らします。

 

 これまで舞台は鎌倉が主でしたが、今作の後半では、鳩子が先代の恋文をたどり、伊豆大島へ訪れます。まちのあらゆるところに椿が咲いていて、三原山との共生が美しく描かれ、一度行ってみたいなと思いました。

 

 代書依頼の内容は、余命宣告されている母親から嫁ぐ娘へあてた手紙、認知症を患う自分への手紙、同性愛を両親へカミングアウトする息子の手紙など、言葉の重みにホロリとします。

 鳩子とQPちゃんが互いに大切に思っている故のすれ違い。そして和解。先代の過去と向き合い、強く生きる鳩子の成長がやさしく描かれていました。

 言葉が相手に届くという実感とその言葉の温度を感じ、生活の中の悩みや苦しみがあっても、その中で今を大切にしたい、後悔しないように伝えたいという思いの温かさが胸に響きました。

 シリーズを通じて、鳩子という女性が少しずつ変化、成長していく様子を見守っていくのもまた楽しみの一つですね。

 また次作を期待したいと思います。

 

椿ノ恋文

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