【あらすじ&ひとりごと】
今回読んだのは、麻宮 好さんの小説『月のうらがわ』(2023)
江戸・深川の長屋を舞台にした人情時代小説です。
子どもたちの真っ直ぐな思いと、大人たちが抱える悲しみが静かに交差する温かな物語でした。
母を亡くした13歳のお綾は、大工の父と幼い弟とともに慎ましく暮らす。
ある日、となりに越してきた写本を生業とする侍・坂崎清之介と出会い、手習をしてくれることになる。その束脩がわりにお綾が坂崎の部屋を片付けていると、坂崎の書きかけの物語「つきのうらがわ」を見つける。
それは、亡き母のいる月へ行きたいと願う子どもの物語だった。
お綾は、その物語の続きを書かせてほしいと頼み考え始めるが、やがて坂崎には暗い過去があることに気付いていく。
この物語に流れる空気のやさしさが心に沁みます。亡くした人を思う気持ちや、誰かのために生きようとする心が丁寧に描かれていて、自然と我が事のように登場人物たちに寄り添いながら読んでしまいました。
印象的なのは、子どもたちの純粋さです。悲しみを抱えながら前を向こうとする姿がいじらしく、同時に大人たちの不器用なやさしさも胸に沁みました。
「月の裏側」という言葉には、見ることのできない誰かの思いや悲しみがつまっているのでしょうかね。大切な人を失った経験のある人ほど、静かに心を揺さぶられる作品になるかもしれません。
切なさだけではなく、人と人が支え合って生きていく温かさが残る一冊でした。
