ふでモグラの気ままな日常

読書をこよなく好む早期退職した元公務員が、読んだ本の紹介を中心に、日頃気づいたことや感じたことなどについて、気ままにひとりごとを発信する雑記ブログ

【読書】町田そのこ『月とアマリリス』ー 加害と被害のあわい ー

【あらすじ&ひとりごと】

 今回読んだのは、町田そのこさんの小説『月とアマリリス』(2025)

 町田さんといえば、これまで家族や孤独、再生を描く温かな印象が強ったですが、今回はミステリのジャンルへ挑んだ作品。でも単純なミステリではないですね。やはり町田作品の根幹は揺らいでいません。

 

 

 北九州市の高蔵山で白骨化した遺体が発見された。遺体のポケットから見つかったのは、「ありがとう、ごめんね。みちる」と書かれたメモ。

 主人公・飯塚みちるは、かつて東京で雑誌の事件記者だったが、過去に自らの記事が一人の少年を追い詰めてしまった苦い経験から、実家の北九州に戻り地元タウン誌のライターとして働いている。

 そこへ元上司であり、かつての恋人でもある堂本からこの事件を取材してほしいと依頼される。

 みちるは断ろうとするが、遺体に残されたメモに自分と同じ名前があったことを知り、取材を引き受ける。

 調査を進める中、単なる殺人事件ではなく、いじめや虐待、共依存など、複雑に絡み合う人間関係が明らかになっていく。

 

 

 町田作品といえば、『52ヘルツのくじらたち』などで、逃れられない孤独や再生を丁寧に描いた温かな物語の印象が強いですよね。

 本作はそこにミステリという形をまとわせながらも、根底に流れるのはやはり「人の痛み」。

 

 特に、加害者側の事情や背景が丁寧に描かれていることが印象的。当然、殺人は許されないけど、そこに至るまでの環境や関係性、積み重ねていった絶望を知ると、単純な善悪では語れなくなりますね。

 

 いじめや虐待は、被害者を生むだけでなく、人を歪ませ、そしてその中で生き続けるうちに誰かがさらに傷つく。その連鎖の恐ろしさを本作は描いています。

 

 声なき声をどう伝えるのか。読後感は温かくもあり、なんか胸の奥に澱のように残る感覚。

 人はどうして歪むのか、やさしさは本当に人を救えるのか、そんなことを投げかけられたような気がします。