ふでモグラの気ままな日常

読書をこよなく好む早期退職した元公務員が、読んだ本の紹介を中心に、日頃気づいたことや感じたことなどについて、気ままにひとりごとを発信する雑記ブログ

【読書】『心淋し川』西條奈加 著

【あらすじ&ひとりごと】

 

 西條奈加さんの直木賞受賞作品『心淋し川』(うらさびしがわ)を読みました。

 本作品は、表題作である「心淋し川」のほか「閨仏」(ねやぼとけ)「はじめましょ」「冬虫夏草」「明けぬ里」「灰の男」の全6編からなる連作短編で、江戸の片隅・心町(うらまち)と呼ばれる訳ありの町を舞台に人間模様を描く時代小説です。

 

 舞台となるこの町には、心淋し川という流れることのないどぶ川があり、この川の名前から心町と名付けられたという。そして、その川の行き詰まりには、長屋が建ち並び、そこには人生に行き詰った人たちが暮らしている。

 でも、そこは人情に溢れ、過去を背負う人たちが人生をやり直す場でもある。

 

 きっとこのどぶ川は、この町に暮らす人々が背負ってきた苦しみや悲しみをずっと見てきたのだろう思います。その苦しみや悲しみを投げ捨て、すべてを受け入れてくれていたのでしょう。

 

 一編一編が心に沁み入りました。

 深い悲しみの中にようやくささやかな幸せを見つけられた。目の前に来ている幸せに手を伸ばせば届くのにそうしない。報われたり報われなかったり、この町に暮らす人たち自身が決めるさまざまな幸せに胸がいっぱいになりました。

 

 時代が変わり、また人の心も移り変わる。

 でも、決して忘れてはいけないのは、人を思いやる人情だと思います。

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