【あらすじ&ひとりごと】
今回読んだのは、窪美澄さんの小説『夜空に浮かぶ欠けた月たち』(2023)
東京の片隅を舞台に様々な心に傷を抱えた人たちが少しずつ救われていく物語です。
六篇からなる連作短編集で「キャンベルのスープ缶」「パイプを持つ少年」「アリスの眠り」「エデンの園のエヴァ」「夜のカフェテラス」「ゆりかご」が収められています。
●地方から上京し大学という新しい環境で、周りと違う自分を痛感し孤立していく澪(みお)。しだいに学校へ行けなくなり、バイト先の純喫茶「純」の店主・純に椎木メンタルクリニックを紹介される。
●忘れ物や約束が守れず、仕事と私生活で苦しむサラリーマンの直也。自分はADHDかもしれないと悩み、葛藤し、自ら近所の椎木メンタルクリニックを受診する決意をする。
●尽くしていればいつか愛される、という思いを抱える女性会社員・麻美。そんな恋愛依存を続けるうちに心が疲弊していく。
●不妊治療を経て娘を授かった美菜。夜泣きに夫の協力もなく、姑との関係からも美菜はしだいに娘への愛情がわからなくなり、自分を責め、衝動的に家を出てしまう。
●椎木メンタルクリニック・旬医師、さおりカウンセラー夫婦。二人は子を亡くし、さおりが心を病んだことで旬は会社員を辞め医師に、さおりはカウンセラーとなったことが明かされる。
●物語の最後の章、純喫茶「純」店主・純の過去が明かされる。椎木メンタルクリニック・旬、さおりもかつて純に助けられ、純もまた医師となった旬、さおりに救われた過去があった。
いずれも心の病を患う主人公たちが、喫茶店・純やクリニックの旬、さおりに救われ、そして物語の後半では、純、旬、さおりの過去の背景が語られるストーリーです。
人が救われるって、劇的な変化ではなくて、人と人とのちょっとした関わりから始まるんだな、と感じますね。
タイトルが裏付けるように、欠けても光を受け、誰かを照らすことができるということが、物語全体に強く表れています。
そして、欠けていることがだめではなくて、完璧を目指さないという生き方も大切なんだと思います。
純喫茶・純の存在。まずは誰かに話すことができる場所、安心できる場所が人には必要ですね。
欠点ばかりに目が行きがちな現代社会の中で、欠けた月だって誰かを照らし、光を受けられるんだという、自分を許容してくれる温かい物語です。
自分にも他人にもやさしくしようと思える一冊でした。
