ふでモグラの気ままな日常

読書をこよなく好む早期退職した元公務員が、読んだ本の紹介を中心に、日頃気づいたことや感じたことなどについて、気ままにひとりごとを発信する雑記ブログ

【読書】佐藤 究『幽玄F』ー ただ飛ぶために生きる ー

【あらすじ&ひとりごと】

 今回読んだのは、佐藤究さんの小説『幽玄F』(2023)

 戦闘機に魅せられ、「飛ぶこと」そのものに人生を捧げた一人の男の軌跡を描いた作品です。

 

 

 易永 透は幼い頃から空に強い憧れを抱き、高校生のときに友人と三沢基地航空祭を見物したのをきっかけに、やがて戦闘機のパイロットとしての道を歩き始める。

 厳しい選抜、訓練を経て、常人では到達し得ない領域へと踏み込んでいく。

 しかし、天才と言われたその先にあるのは栄光だけではなく、肉体的・精神的な限界との戦いだった。

 透にとって、飛ぶことは単なる職業ではなく、「より速く、より高く」飛び、生きる意味そのものになっていく。

 

 

 易永 透の「削ぎ落された人生」、とてもストイックで印象的です。普通の幸福や安定を選ばず、ただひとつ「飛ぶこと」にすべてを収束させていますね。

 人が何か一つのことにここまで徹底して生きられるのかという驚きと、ある種の羨望すら感じさせます。

 私たちは、仕事・家庭・人間関係といった多くの中でバランスを取りながら生きているのが現実。でも、透はバランスを捨てて一点に突き抜けていく。その選択は決して万人に肯定されるものではないけど、生への純度の高さを圧倒的に示してきます。

 

 無限の空に対し、有限の人間が挑み続ける。易永 透の生き様は、成功や幸福の物差しでは測れない、「存在の燃焼」であったように思います。

 

 この作品は、三島由紀夫をモチーフにしているよう。言葉や観念ではなく、「行為」によって自分を証明する生き方。

 易永 透もまた、理屈ではなく、飛ぶという行動の中でしか自分を成立させることができない人物のように感じました。

 三島の『行動学入門』をあわせて読むほうがいいようですね。

 とても引き込まれるおもしろい作品でした。

 

幽玄F

幽玄F

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