ふでモグラの気ままな日常

読書をこよなく好む早期退職した元公務員が、読んだ本の紹介を中心に、日頃気づいたことや感じたことなどについて、気ままにひとりごとを発信する雑記ブログ

【読書】『ムーンライト・イン』中島京子 著

角川書店(2021)

【あらすじ&ひとりごと】

 中島京子さんの作品は初めてです。直木賞受賞作品の『小さいおうち』のイメージだけで、今まで読んだことはありませんでした。

 登場する人物は、それぞれ事情を抱える訳ありですが、味があってとてもユーモア。後味のよい作品でした。


 職を失った青年・栗田拓海は、自転車旅行中に雨に降られ、窓の灯りとおいしそうなスープの匂いにひかれ、古びた建物「ムーンライト・イン」を訪ねる。

 そこには、かつてペンションであったが今は世代の違う3人の女性がそれぞれ事情を抱えて過ごしていた。

 そして一晩限りの雨宿りのつもりが、拓海もしばらく居候することになり、奇妙な共同生活が始まる。


 「ムーンライト・イン」の住人たちはそれぞれ訳ありで、少しずつ明かされていくのですが、どれも現代を象徴する問題を織り込んだ物語になっています。

 つまずいた人たちがこの「ムーンライト・イン」に身を寄せ、互いが胸に秘めることを打ち明け合ったり、うっすらと気づいていたりと、ユーモアたっぷりに描かれ、個性的な住人がいいスパイスとなって、楽しませてくれます。

 そして、いつまでも逃げてばかりはいられないと、それぞれが再生の一歩を踏み出そうとするところに、生きていればいろいろあるけどそれでも人生を続いていくんだという思いにさせてくれます。


 人生の岐路に立ったとき、前ばかり見ないで、休止して少しくらい後ろ向いたって、再生するための充電だと思えばいいのかなと思ったりします。


【読書】『希望の糸』東野圭吾 著

講談社(2019)

【あらすじ&ひとりごと】

 読み始めて、刑事・加賀恭一郎シリーズだと気付きました。東野さんのこのシリーズは、『眠りの森』を読んだのみ。

 映画では、『麒麟の翼』、『祈りの幕が下りる時』を観ましたが、原作は読んでいません。

 『祈りの幕〜』では、加賀の生い立ちが明らかにされ、シリーズの完結とのことでしたが、本作は加賀の従弟・松宮刑事が主人公で描かれ、続編ということになるのでしょうか。

 加賀恭一郎といえば、もう阿部寛さんのハマり役で、原作を読んでいてもあの顔と滑舌が浮かんでくるぐらい。

 

 震災によって幼い二人の我が子を失った家族と、老舗旅館を営む女将の家族、そして喫茶店を営む女性の話。そこに殺人事件が起き、三つの家族が絡みあいながら真実が明らかにされていく。

 それぞれの家族のあり方を考えさせられる物語になっています。そして松宮刑事の過去も明らかになります。

 

 推理小説というより、人間性を捉えていて、東野さんの描く犯人像はとても切ない。

ミステリーとはいってもそれだけではなく、丁寧に描かれたその背景が現れ一つになっていくところに心を持っていかれます。

 

 ガリレオシリーズの科学的なトリックを暴く醍醐味を味わうのも楽しいですが、加賀シリーズの人情味溢れるストーリーもいいですね。

 

 「希望の糸」… 

たとえ会えなくても、自分にとって大切な人間と見えない糸で繋がっていると思えたら、それだけで幸せだって。その糸がどんなに長くても希望を持てるって。だから死ぬまで、その糸は離さない

 「赤い糸」って言葉はよく使われるけど、「希望の糸」というのもいいですね。でも少し寂しいかな~。 

 

 ついつい東野さんの作品に手を伸ばしてしまいます。

【読書】グリム童話『漁夫とその妻の話』

『完訳グリム童話集(一)金田鬼一訳』その15

『漁夫とその妻の話』〈KHM19〉

【あらすじ(要約)】

 昔、漁師とおかみさんが、汚い小さな家に住んでいました。

 ある日、漁師が釣りに出かけると、一匹のカレイが釣れました。
 漁師はそのカレイを売ろうとしますが、カレイに話しかけられ、自分は魔法をかけられた王子と言い、お礼をするから海へ戻してほしいと話します。漁師はビックリしましたが、カレイをカゴから出してやり、海へ放してやりました。

 

 漁師は家に帰り、そのことをおかみさんに話すと、お礼をすると言っているのだから、こんな汚い家ではなく、小さくても新しい家がほしいと今すぐカレイのところに行って、願いごとをするよう言いました。
 漁師は仕方なくもう一度海に行って、カレイに話しかけると、おかみさんの願いは叶ったと言います。
 漁師が家に帰ってみると、おかみさんが小さいけれど新しい家の前で喜んでいました。

 

 しばらくして、やがておかみさんが石造りの御殿に住みたいと言います。
 漁師が紫色や藍色、灰色になった海に行ってカレイにそのことを話すと、カレイは、おかみさんは戸口に立っていると言います。
 家に戻ってみると、小さな家はとても大きな石造りの御殿になっていました。

 

 おかみさんはまたこれにも飽きて、漁師に王様になりたいと言いました。
 漁師はおかみさんに怒鳴りつけられ、仕方なく黒ずんだネズミ色一色の海に行き、もう一度カレイにおかみさんの願いを言いました。
 家に戻ってみると家はお城に変わっており、おかみさんは王様になり、まわりには大勢の兵隊がいました。


 とうとう王様になったおかみさんですが、やがて飽きてしまいました。
 今度は、天子様になりたいと言います。
 漁師は真っ黒でドロドロになった海に行き、カレイにおかみさんの願いを話すと、今度も願いを叶えてくれました。
 家に帰ってみると、おかみさんは多くの近衛兵と侯爵、公爵を従え、天子様になっていました。


 でもおかみさんは、それもやがて飽きて、今度はローマ法王になりたいと言いました。

 漁師は、カレイにもそれはできないと言いますが、おかみさんに天子様になれたのだから法王にだってなれると怒鳴りつけられ、おどおどと出て行きました。

 海は煮え繰り返るように逆巻いて、轟々と鳴り響き、漁師はカレイにおかみさんの願いを話すと、今度も願いを叶えてくれました。


 でもやがて、おかみさんは法王様にも飽きてしまいました。

 今度はお日様やお月様を自分の力で昇らせることができる神様になりたいとおかみさんは言いました。
 漁師は、おかみさんに我慢して法王様でいてくれと頼みますが、もう辛抱できないと怒鳴りつけられ、慌てふためいて気が違ったように出て行きました。

 外は嵐が轟々と荒れ狂い、海は山のような高浪で、漁師はカレイに声を張り上げ、おかみさんの願いを言いました。
 するとカレイは、おかみさんは昔の汚い家にいますよと言いました。

 

【ひとりごと】

 欲を張りすぎてしまって、せっかく手にしたものを失う妻を持った漁師のお話です。

 この教訓はとてもわかりやすいですね。

 人間、欲をかいてはいけません。欲を出すとすべてを失う。人は現状に満足できないものですかね。

 身の丈にあった生き方をしていきたいものです。足るを知ることが幸せに生きる秘訣です。

 おかみさんの欲望がふくれあがるにつれて、海が荒れていくのが、カレイの気持ちを象徴しているようでした。でも、王子様だったカレイはその後どうなったのか。

 

【読書】『犬がいた季節』伊吹有喜 著

双葉社(2020)

【あらすじ&ひとりごと】

 読み心地がとてもさわやかな小説でした。

 私が犬好きもあってか手にした一冊ですが、人と犬との共生を描くありがちな内容ではなく、18歳の高校生たちの決意や友情、恋愛、そして新たな出発を犬が静かに優しく見守っていくという美しい一冊でした。

 

 高校に迷い込んだ「シロ」と呼ばれていた子犬は、生徒の努力で学校で飼うことを許され、ちょっとしたできごとから名前を「コーシロー」と名付けられる。

 高校で拾われ、育てられるコーシローをめぐって、昭和から平成、令和の春から春へと季節がめぐり、コーシローが見守り続けた18歳たちの思いを描いた作品です。

 

 本作品は連作短編で、どの編も始まりはコーシローの視点から描かれます。

 ユーモアがあってほっこりするも、卒業していった最初に出会った少女の「桜」の匂いと面影を胸に秘め続けるコーシローに胸が熱くなります。

 

 でも決して悲しい物語ではなく、18歳が逡巡しながらも決意する瑞々しい作品ですので、むしろ大人たちに読んでもらって、若者の思いを感じてほしいなあと思います。

 

 

【読書】『縁(YUKARI)』小野寺史宜 著

講談社(2019)

【あらすじ&ひとりごと】

 小野寺史宜さんらしい作品でした。

 やはりテーマは「人と人との繋がり」。

 私が言うのも変ですが、心に深く刻まれる文章というわけではない(と感じている)のに、人と人が触れ合っていくことによって起きる、さまざまな些細な問題に傷つきながらも、またちょっとしたことで気持ちを回復していく、そんな日常的な描写をさらりと綴っていく内容に惹かれます。

 

 この作品は、四編から連なる短編で、「霧 KIRI」「塵 CHIRI」「針 HARI」「縁 HERI」とそれぞれ主人公(視点)が変わり、つながっていきます。そして最後に「終 OWARI」で回収されます。

 

 読みながら、普段の生活に「あるある」と自分に置き換えながらムカムカして、ラストにたったこの一言が人の心を軽くし、また先を見ようと思わせてくれる、そんな言葉がモヤモヤとした今までの感情を少しずつ溶かしていく。

 地味だけど、身近で普通に起こりうることだから、とても心に沁みて、すーっとしていきます。

 何も考えたくないときや、少し疲れていると感じたときに読んでみたらいかがでしょうか。