【あらすじ&ひとりごと】
佐藤究さんの直木賞、山本周五郎賞受賞作品『テスカトリポカ』を読みました。
暴力シーンや殺人、麻薬・臓器密売など、想像以上に凄まじかったですが、ストーリーはとても濃厚なクライムミステリでした。
しかも500頁を超える長編ですが、そんなえぐいシーンでは自分がやられているような感覚になって、自然と肩に力が入り読んでいたものの、その圧倒的な臨場感に中だるみもせずに読み終わることができました。さすがに重厚感のある作品でした。
メキシコから日本へ逃れてきた母・ルシアと、暴力団員・土方興三との間に生まれた土方コシモ。
コシモは友達もいなければ、授業にもついていけず、小学4年生になったとき教科書の入ったランドセルを川に投げ捨て不登校となる。いつも空腹で、児童公園に落ちている小枝を拾い、小刀で模様を彫ることが日課となった。
あることが原因でコシモは両親を殺してしまい、少年院へ。退院後、手先が器用なことを見込まれナイフ工房で雇われるが、そこを通じて麻薬密売人として君臨してきたメキシコ人のバルミロと出会う。
そして、組織を拡大していくバルミロは、国際的な臓器売買のビジネスまで手を広げ、コシモは知らぬ間にその組織の一員となり犯罪に巻き込まれていく。
「テスカトリポカ」とは何のことなのか、知識もないまま読み始めたけど、大昔メキシコで栄えたアステカ王国の神の一人で、生贄として人間の心臓を捧げる儀式があったという。そんな狂信さ故の麻薬・臓器売買の犯罪ストーリーにこのアステカの神々の儀式を不随させ、宗教的意味を重ねていく内容に恐怖と戦慄を感じましたね。
また、麻薬組織は実際に存在するだろうから、麻薬が世界から消えることはない。そんな悲惨な事実を考えさせるメッセージでもあるのかな。
はじめから終盤まで悪夢のような極悪非道の強烈な展開でしたが、迎える結末は一気に気持ちが浄化していきます。とても衝撃的な一冊でした。