『完訳グリム童話集(一)金田鬼一訳』その32
『靴はき猫』
【あらすじ(要約)】
粉ひき男が息子3人、粉ひき場、驢馬、牡猫を持っていました。
粉ひきが死ぬと財産を分けました。長男は粉ひき場、次男は驢馬、三男は牡猫。
三男は「ぼくがもらったものが一番悪い」と言いました。
「聞いてください」と牡猫が口をききました。「私に編上げの靴を一足ください」と。
三男は、猫が言うのはおかしいと思い、靴屋に猫の靴の寸法をとってもらいました。
靴が出来上がると牡猫は靴を履き、袋に麦を入れ、郊外へ出て行きました。
その頃の王様は、シャコという鳥が好物でしたが、手に入りません。森にはシャコが多くいるのですが、怖くて狩人も近寄れません。猫は自分がやろうと目論見ました。
森へ入ると猫は、麦を入れた袋の口を開け、口の内側に麦を広げ散らし、姿を隠して待ち伏せしました。
間もなくシャコがやってきて、どんどん袋の中へ入っていくのを見て紐を締め、背中に背負って王様の城へ出掛けました。
番兵に怒鳴られ、猫は「王様のところへ」と答えます。王様はよく退屈しているので、通してもらうことができました。
猫は王様の御前で「手前の主人、伯爵が王様によろしく申し上げるようにとのことで、シャコを献上仕りまする」と述べました。
見事なシャコを見て王様はうれしくて、金貨を出して持てるだけ猫の袋に入れてやれと言いつけました。
息子は、猫の靴をこしらえたため一文なしになってしまったが、猫は代わりにめぼしいものを持ってくるのかと考えていました。
そこへ猫が入ってきて袋から金貨をぶちまけます。
猫は訳を話し「お金はずいぶんありますが、もっとお金持ちにならなくては。王様には、あなたは伯爵だと言っておきました」と言いました。
あくる日、またシャコ狩りに出掛け、王様に獲物を届けました。それから毎日届け、金貨も持ち帰って、王様のお気に入りになり、自由に出入りすることが許されました。
あるとき馭者が「王様とお姫様の遊山のお供で湖水まで乗せていかねばならない」と悪態をつきました。
牡猫がこれを聞くと、粉ひきの息子に「伯爵になってお金持ちになりたければ私と湖水に来て水浴びをなさい」と言いました。
息子は水の中に飛び込むと、猫は脱いだ着物を隠してしまいました。そこへ王様が馬車で通り、猫は「私の主人が水浴びをしていたところ、賊が来て主人の衣装を盗み去りました。このまま水中に浸かったままでいると死んでしまうでしょう」と言いました。
王様は家来を御殿に行かせ、王様のお召し物を取り寄せました。それから、王様は例のシャコはこの人からもらうため、かねてから好意を寄せていたので、一緒に馬車に乗せずにはいきません。伯爵は若く美しかったので、姫様もお気に召したのです。
ところで牡猫は先回りして草原へ。草原には100人以上いて「この草原は誰のだ」と訊ねました。
「魔法大王のもの」
「まもなく王様が馬車で通る。この草原は誰のものかと訊ねられたら、伯爵のものと言え。言わないとぶち殺されるぞ」こう言って猫は先へ行きました。
大きな麦畑に来ると「この麦は誰のだ」
「魔法使いのもの」
「王様が訊ねたら、伯爵のものと言え。言わないとぶち殺されるぞ」
牡猫は見事な森へ来ました。
「この森は誰のだ」
「魔法使いのもの」
「王様が訊ねたら、伯爵のものと言え。言わないと命を取られるぞ」
牡猫はずんずん歩いていき、人間みたいな靴を履いて歩いているので、皆怖がりました。
牡猫は魔法使いの御殿に着き、魔法使いは何か用かと訊ねました。
牡猫は「あなたはどんな獣にも化けられると承っています。犬、狐、狼くらいならいいでしょうが、象はだめだろうと思い、拝見のため参りました」と言います。
「そんなものは朝飯前だ」と魔法使いは象に化けました。
「お見事、ではライオンにも?」
魔法使いはライオンにも化けます。
「これは前代未聞です。けれども、ハツカネズミのような小さな動物にも化けられると、本当に大したものです。あなたが世界中のどんな魔法使いより優れているのはわかっていますが、さすがにできないでしょう」と猫は言いました。
魔法使いは「何言う猫ちゃん」と言ったかと思うと、ハツカネズミになり跳ね回りました。
牡猫はそれを捕まえて食べてしまいました。
王様のほうは、例の草原に差し掛かり、「この干し草は誰のものだ」と聞くと、一同は牡猫の言い付け通り「伯爵様のもの」と答えました。
次に麦畑に出ました。
「この麦は誰のものだ」
「伯爵様のもの」
次に例の森です。
「この森は誰のものだ」
「伯爵様のもの」
王様の驚きは大きくなるばかりです。
とうとう御殿に着きました。
牡猫は扉を開け「私の主人、伯爵の館です。誠に光栄、終生の喜びです」と王様に述べました。
王様は馬車から降り、自分の御殿より大きく立派でびっくりしました。
伯爵は姫様を大広間へ案内しました。
このようなことで、姫様は伯爵と婚約しました。そのうち王様が亡くなって、伯爵が王様になり、靴を履いた牡猫は総理大臣になりました。
【ひとりごと】
この物語は『長靴をはいた猫』という題名のほうが一般的かもしれませんね。
フランス作家ペローの童話集に収められているものが有名なため、グリム童話集(原本)からは削除されています。内容も細かいところが違いますね。
一番悪いと思われた財産が一番良いものに。やはり人も物も価値は外見では判断できません。
そして親の残すものを当てにすることなく、自分で切り拓いていくことが大切なことなのでしょう。