【あらすじ&ひとりごと】
あの3.11の東日本大震災から十年余、被災地に生きるひとりの男の悲しみや苦悩、毎日やるせない虚無感、焦燥感を淡々と描いた作品です。
宮城県亘理町が舞台で、東日本大震災とは明記されていませんが、大震災を「災厄」、津波を「海が膨張」と表現しているところに震災時のリアルさが何とも言えません。
造園業の一人親方である坂井祐治は、仕事を独立した直後に災厄に見舞われる。
仕事道具も失い苦しい日々を過ごす中、その二年後に妻も病気で亡くし、その後再婚するもうまくいかず、実家で母親とともに息子と生活する。
今までの生活が決して元通りにならないという虚無感を抱え、答えの出ない答えを探し求め、さまよう苦悩を描いています。
社会は災害が起きるたび、長い年月を経て、家を建て直し道を整備し、町を復興させます。でも、傷ついた人の心は癒されることはないし、元の生活には決して戻れない、人の心に完全な復興はないのだと。読みながら、立ち枯れていく海辺に立つ松を思い出して、その松のように被災された方々の心も枯れて、癒すことができないという悲しみがひしひしと伝わってきます。
それでも生きていくしかない。亡くなった人たちのためにも。
私たちができることは何なのだろう。この事実を忘れないこと、そしてその地を訪れることでしょうか。
天災はいつどこで起きるかわかりません。明日は我が身かも。現在も能登や台湾で絶望の中必死に生きている人たちを思うと胸が痛みます。
その地にいつか活気が戻るように、私たちはほんの些細なことでも応援しなければいけませんね。
私の住む町は災害が少ない。東日本大震災の被害、令和元年台風19号の被害は確かにあったけど、東北地方の被害には全く及びません。しかもこの亘理町は令和元年台風19号で阿武隈川が氾濫しさらなる被害を受けているのですね。
復興には終わりは来ません。この小説の舞台となった亘理町の「荒地」。この本には、その地において私たちが知らない、想像もできない時間が流れていました。
芥川賞作品と何気に手にした小説でしたが、読んでよかったです。