【あらすじ&ひとりごと】
そのときに、
「頭の中にあるのは、読者を楽しませるものを書くということだけです」
「文学性を追わず、ただひたすら娯楽性を求めて書き続けてきました。自分が作家として生き残っていくには、そこにしか活路はないとわかっていたからです。その覚悟だけが信用できる唯一のコンパスでした」
とコメントされていました。
その38年間の覚悟と信念、素敵です。これは東野文学ですね。
『ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人』を読みました。
相変わらずの軽快なテンポと、またこれまでと違った個性の登場人物が現れ、謎解きの痛快さに頁が進みました。
寂れた平凡な温泉観光地である、名もなき町。
この町に再び賑わいを戻すための計画が進められていたが、世界中を襲ったコロナウィルスの蔓延によって頓挫する中、かつて中学教師だった男が殺される。
被害者の一人娘・真世は、事件のために仕事や結婚の準備を残したまま故郷へ戻るが、そこで殺された父の弟・武史と再会する。
そして、武史は自らの手で犯人を見つけるため動き出し、真世も協力することになる。
このミステリーの中心は、やはり叔父である武史の存在。警察への言動が何ともハラハラするが気持ちがいい。
本作のプロローグは、白装束の男が日本刀を操るマジックショーが描かれているところから始まるのだけれど、これだけが読み進めるうちにマジシャンだったと知れる武史の経歴が明かされる唯一のくだりとなります。
だから、相手の心理を読むテク、手先の器用さが警察を翻弄する痛快さへと繋がっていくことに結びつきました。
登場する人物たちは、被害者の身内以外には教え子たち。
伏線がいくつも張られていて、誰もが疑わしく思えてきて、疑念がいろいろな方向へと向いてしまいます。
でも結末が明かされると、東野さんらしい切ない犯罪。犯人への憎しみだけが残るようなラストではありませんでした。
今回も東野文学を楽しませていただきました。
この続編ができることを期待したいです。