『完訳グリム童話集(一)金田鬼一訳』その28
『しらみとのみ〈KHM30〉』
【あらすじ(要約)】
しらみとのみが所帯をもち、卵の殻の中にビールをこしらえました。すると、しらみがその中に落ちて火傷をしました。
これが悲しくて、のみが泣き出しました。それを聞いて、開き戸が「のみさん、どうして泣いてるの?」と言うと、「しらみさんが火傷したんですもの」
すると、開き戸がきいきい鳴り出しました。それを聞いて、隅っこにいた箒が「開きさん、どうしてきいきい言ってるの?」と言うと、「きいきい言わずにいられよか、しらみの小僧が火傷して、のみが泣く」
すると、箒はすごい勢いで掃除を始めました。
そこへ通りかかった小さな車が「箒どん、なんで掃除してるだね?」と言うと、「掃除しないでいられよか、しらみの小僧が火傷して、のみは泣く泣く、開きはきしむ」
すると、車は「わしもかけ出すべえ」と言い、走り出しました。それを見て、脇に積んであった堆肥が「車どん、何でそんなにかけてくだ?」と言うと、「これがかけずにいられよか、しらみの小僧が火傷して、のみは泣く泣く、開きはきしむ、箒はお掃除」
すると、堆肥は「おらも、燃えてやるべえ」と言って、燃え始めました。
堆肥の脇に生えていた小さな木が「どうしてそんなに燃えてるの?」と言うと、「燃えずにいられよか、しらみの小僧が火傷して、のみは泣く泣く、開きはきしむ、箒はお掃除、車はかけ出す」
すると木が「そんなら私も身震いしよう」と言って、ぶるぶる震え出したので、葉っぱはみんな落ちてしまいました。
これを見て、水がめを運んできた女の子が「立ち木さん、どうして震えてるの?」と言うと、「震えずにいられよか、しらみの小僧が火傷して、のみは泣く泣く、開きはきしむ、箒はお掃除、車はかけ出す、こやしは燃える」
すると、女の子は「それじゃ私も水がめなんか壊しちまう」と言って、こなごなに壊しました。
それを見て、水が湧き出すふき井戸が「ねえちゃん、どうして水がめを壊すのよう?」と言うと、「水がめを壊さずにいられよか、しらみの小僧が火傷して、のみは泣く泣く、開きはきしむ、箒はお掃除、車はかけ出す、こやしは燃える、立ち木は震える」
すると、ふき井戸は「そんなら私も流れだそ」と言い、怖ろしい勢いで流れ出しました。その水につかって、みんな溺れ死んでしまいました。女の子も、木も、堆肥も、車も、箒も、開き戸も、のみも、しらみも、みんな一緒に。
【ひとりごと】
恐ろしい結末ですが、おなじみの主人公が人間ではないので、コメディっぽさもありました。
物語にどんな戒めがあるのかは、よくわかりませんね。
無理に考えていくと、突然の災害によるパニックが、周囲に感染することで被害がより大きくなるという戒めかな。
緊急事態の際は「冷静沈着に」ということでしょうか。