ふでモグラの気ままな日常

読書をこよなく好む早期退職した元公務員が、読んだ本の紹介を中心に、日頃気づいたことや感じたことなどについて、気ままにひとりごとを発信する雑記ブログ

【読書】グリム童話『黄金の毛が三ぼんはえてる鬼』

『完訳グリム童話集(一)金田鬼一訳』その27

『黄金の毛が三ぼんはえてる鬼〈KHM29〉』

【あらすじ(要約)】

 昔、貧しい女が男の子を生みました。頭に福ずきんを被っていたので、14歳になるとお姫様を嫁にするという予言がありました。
 王様がこの村に来て、何か変わったことはないかと村人に訊ねると、「福ずきんを被った子が生まれたので、14歳になるとお姫様を嫁にもらうだろうと予言する者もいます」と言いました。


 王様は腹黒い人でその子の親のところへ行き、親切なふりをして「貧しいようだが、その子を私が面倒を見よう」と言いました。
 両親は断りますが、金貨をたくさんくれると言うし運のいい子だと考え、子を王様に渡しました。
 王様は子を箱に入れ、川に放り込み、思いもよらないやつに娘をやるところだったと思いました。


 ところが箱は沈まず流れていき、都から離れた水車場に引っ掛かりました。
 粉ひきの小僧が見つけて、箱にはきれいな男の子がいました。
 小僧は粉ひき夫婦のところへ連れていき、夫婦に子がなかったので喜び大切に育て、成人しました。


 ある時、王様が水車場に来て、粉ひき夫婦にこの子はおまえたちの倅かと訊ねました。
「これは捨て子で14年前に箱に入れられ流れ着きました」と夫婦は答えました。
 王様は、あの時の子だと気付き「この子に妃へ手紙を届けてくれないか。褒美に金貨を二枚とらせる」と言いました。


 王様の書いた手紙には「この手紙を持った子が着いたら、殺して埋めろ」と書いてありました。
 男の子は手紙を持って出掛けると、道に迷い森の中の小さな家に出ました。
 お婆さんがいて「どこへ行くつもりだ」と言いました。
 男の子は「お妃様に手紙を届けに行くところで、道に迷ったので泊めてほしい」と答えました。
 お婆さんは「泥棒の住処だから殺されてしまうよ」と言いました。
「僕は怖くない。くたびれてこれ以上歩けない」と男の子は腰掛けの上に寝てしまいました。


 泥棒たちが帰ってきました。
「道に迷ってかわいそうだから入れてやったんだよ。お妃様に手紙を届けるのだとさ」とお婆さんは言いました。
 泥棒たちは手紙を読み、この子が着いたら殺せと書いてあります。泥棒たちもかわいそうになり、この子が着いたらすぐにお姫様と結婚させるようにと、別の手紙を書きました。

 泥棒たちは男の子が朝目覚めたとき、手紙を渡して道を教えてやりました。


 お妃は手紙を読むと、そのとおりに取り計らい、お姫様は福を授かる子の嫁になりました。この子は優しく美しいので、仲良く暮らしました。


 王様が帰ると、福を授かる子が姫を嫁にしていました。
「手紙に全く違う命令を書いたが、どういうことだ」と言いました。
 お妃から手紙を渡されると、王様は手紙がすり替えられたことに気付き、少年に訊ねます。
「森の中で寝た晩にすり替えられたに違いありません」と少年は言いました。
 王様は怒り「訳もなく娘はやれない、欲しければ地獄から鬼の頭の黄金の毛を三本取ってこい」と言いました。
 福を授かる子は鬼の黄金の毛を取るために旅に出掛けました。


 少年は大きな都に来ました。

 門番はどんな生業を心得て、どんなことを知っているのか、少年に聞きました。

 少年は「何でも知ってます」と答えます。
「この町の井戸からぶどう酒が湧き出していたのに、この頃は干上がって水も出ない。どうしてか教えてほしい」と門番が言います。
「教えてあげます。でも僕が戻ってくるまで待ってください」と少年は答えます。


 それから、また別の都の門番が、また同じことを聞いてきました。
「何でも知ってます」と少年は答えます。
「この都にある木に黄金のりんごがなっていたのに、今では葉っぱ一枚出ない。どうしてか教えてほしい」と門番が言います。
「教えてあげます。でも僕が戻ってくるまで待ってください」と少年は答えます。


 それから先へ行き大きな川に出ました。渡し守は、また同じことを少年に聞いてきました。

「何でも知ってます」と少年は答えます。
「俺は年がら年じゅう、人を渡してばかりいて替わり番が来ないが、どうしてか」と渡し守が言うと、「教えてあげます。でも僕が戻ってくるまで待ってください」と少年は答えました。

 川の向う岸に渡ると、地獄の入口が見つかり、鬼は留守でしたが鬼のお婆さんがいました。
 
「僕は鬼の黄金の毛が三本欲しい。でないと、お嫁さんを自分のものにしておけないのです」と少年は言いました。
「鬼が帰ってくるとやられちまうよ。でもかわいそうだから手伝ってあげよう」とお婆さんは言いました。
 鬼のお婆さんは少年を蟻にして、「私のスカートのひだの中に這い込みな」と言いました。
そして、少年は門番と渡し守に聞かれた三つのことをお婆さんに聞きます。
 お婆さんは「私が鬼から黄金の毛を三本引き抜くたびに、鬼が言うのをよく聞いてるんだよ」と言いました。


 鬼は帰って来ると、ご飯を食べ、お酒を飲み疲れが出て、お婆さんの膝の上に頭を乗せて虱を取ってくれと言いました。

 やがて鬼がいびきをかき始めると、お婆さんは黄金の毛を一本引き抜きました。
「いてえ。何をするんだ」と鬼が喚くと、「嫌な夢を見たんだよ。それでおまえの毛を掴んだのさ」と鬼のお婆さんが答えました。
「どんな夢を見たんだ」と鬼が訊ねると、お婆さんは「ある町の井戸の夢だよ。今までぶどう酒が湧き出ていたのに涸れて水も出なくなった。どうしたんだろう」と言いました。
「井戸の中の石の下にひき蛙がいるのさ。そいつを殺せばまたぶどう酒が出てくる」と鬼は言いました。


 お婆さんがまた虱をとっていると、鬼は寝込んでしまい、お婆さんは二本目の毛を引っこ抜きました。
「何しやがる」と鬼が怒鳴ると、お婆さんは「夢を見てやったことだから」と答えました。
鬼が訊ねると、お婆さんは「どこかの国に果物の木があって、黄金のりんごがなっていたのに、今は葉っぱも出ない。どうしたんだろう」と言いました。
 鬼は「根っこをかじっているねずみがいるのさ。そいつを殺せばまた黄金のりんごがなる」と答えました。


 また鬼はいびきをかき始めました。お婆さんは三本目の黄金の毛を引っこ抜きました。
 鬼は喚きちらしましたが、お婆さんは鬼をなだめ、「嫌な夢ばかり見るから仕方ないじゃないか」と言うと、鬼はどんな夢を見たのか聞かずにはいられませんでした。
「川の渡し守の夢だが、年がら年じゅう人をあっちへこっちへ渡すばかりで、自分の代わりが来ないとぶうぶう言うのさ。どうしたんだろう」
「渡してもらいたいってやつが誰か来たら、そいつの手に棹をやっちまうのさ」と鬼が答えました。


 夜が明け、鬼が出ていくと、福を授かる子を人間の姿に戻してやりました。
「ここに黄金の毛が三本をある。それから鬼が三つの問いに答えた文句をよく聞いていたろうね」とお婆さんが言いました。

 少年はお婆さんに礼を言い、地獄を立ち去りました。
 渡し守のところまで来ると、約束の返事をせがまれます。
 少年は向こう岸へ渡ってから「この次誰かがやってきたら構わずその人の手に棹をやってしまいなさい」と鬼の言ったことをそのまま伝えました。


 少年は先へ行き、実のならなくなった木の生えている都へ来ると、番人が返事をくれと言いました。

 少年は「その木の根っこをかじっているねずみを殺しなさい。そうすればまた黄金のりんごがなりますよ」と鬼から聞いたことを話しました。
 番人はお礼に金貨を背負った驢馬を二頭くれました。


 最後に来たのは井戸の涸れてしまった都です。

 少年は鬼の受け売りをして「井戸の中の石の下にひき蛙が一匹います。それを殺せば、またぶどう酒を出してくれます」と話しました。
 番人はお礼を言い、金貨を背負った驢馬を二頭少年にやりました。


 やっとのことで少年はお嫁さんのところにたどり着きました。お嫁さんはうまくいったことを聞いて喜びました。
 王様には鬼の黄金の毛三本を渡しますが、王様は金貨を背負う四頭の驢馬を見ると有頂天の喜びで「これで娘をおまえの妻にしてよろしい。だが、このたくさんの金貨はどこから持ってきたのか」と言いました。

 少年は「ある川を渡りました。これはそこで取ってきました。その川岸は、これが砂の代わりになっています」と答えました。
 王様は欲しくてたまらず「わしにも取ってこられるかな」と訊ねました。
「その川には渡し守がいます。向こう岸で王様の袋へいくつでもお入れになれます」と少年は答えました。


 欲張りな王様は大急ぎで出掛けました。
 例の川へ来ると、渡し守に向こう岸へ渡してくれと言いました。

 向こう岸へ着くと、渡し守は舟をこぐ棹を王様の手に渡して、自分だけ舟から跳びました。
 王様はこれまでの罪の罰として、ずっと渡し守をつとめなければなりませんでした。

 

「王様は、今でも渡し守をしているのかしら」

「当たり前じゃないか。王様の手から棹をとったものなんて、だれもないだろ」

 

【ひとりごと】

 勇気と強欲の物語でした。

 王様自らお金を取りに出掛けるのが、欲深さ丸出しですね。

 お金が人を狂わせるのか、そもそも強欲ゆえのことか。

 きっとどこの世界にもいますよね。

 

 物語最後の会話は、民なのか、お姫様夫婦なのか。王の追放ですね。

岩波文庫(1979)