【あらすじ&ひとりごと】
『クスノキの番人』を読みました。
いつもの東野さんらしいミステリーではなく、むしろファンタジーというか、スピリチュアルでとても神秘的な物語でした。
『ナミヤ雑貨店の奇蹟』のようなやさしく、人が生きて行くことに希望を持てる物語。
不当に職場を解雇され、その腹いせに会社に忍び込み、窃盗未遂で逮捕された直井玲斗のもとに突然弁護士が現れた。
依頼人は明かされず、心当たりもないが、その依頼人の「命令」を聞くなら釈放されるよう動くと言う弁護士に、今後に考えをめぐらすが玲斗は従うことにする。
釈放され、依頼人の待つ場所へ行くと、柳澤千舟と名乗る年配の女性は、それは伯母であった。玲斗は早くに親を亡くし、祖母に育てられるが、千舟は玲斗の母親の腹違いの姉という。
そして、その「命令」とは、「クスノキの番人」になること。祈れば願いが叶うというクスノキを訪れ祈念する人々と、番人を任された玲斗の織りなす物語です。
クスノキの秘める力、それは願い事を叶えるのではなく、念じて「思い」を預け(預念)、血縁者にのみその「思い」を受け取ってもらう(受念)、いわば遺書のようなもの。
クスノキの力を知り始め、祈念に訪れる人たちと触れ合い、絆を深める玲斗の番人としての仕事への覚悟と成長を、厳しくも愛情をもって見守る千舟が少しずつ認めていく過程が、とても感情豊かに描かれ、気持ちが温かくなります。
クスノキに祈念する家族のエピソードは、どれも目頭が熱くなります。
そして最後、千舟の預念を知った玲斗は、その秘めたる思いに気付きます。読後感のよい、とても素敵な物語でした。