『完訳グリム童話集(一)金田鬼一訳』その10
『糸くり三人おんな』〈KHM14〉
【あらすじ&ひとりごと】
昔、怠け者の女の子がいて、糸を紡ぐことを嫌がりました。
母親は、女の子が言うことを聞かないので、腹が立って、つい殴りつけました。
すると、娘が泣いているところに王様のお妃が通りかかり、なぜ泣いているのか尋ねます。
母親は、怠け者の娘を恥ずかしく思い、娘が糸くりをいつまでもしていたいと言うが、うちは貧乏で麻がないとお妃に話します。
するとお妃は、娘を今すぐ御殿へ来させ、嫌と言うほど糸くりをさせてあげようと話します。
御殿に着くと、見事な麻がぎっしりつまった部屋へ連れていき、この麻を残らず紡いだら、一番目の息子をお婿さんにしてあげるとお妃は言います。
女の子は、自分がお婆さんになったとしても、これだけの麻は紡げないと途方に暮れます。
女の子は3日間座ったまま手も動かさず泣いていました。
3日目にお妃が来て、まだ紡がれてないのを見て不思議に思い、明日は仕事を始めるように言います。
女の子はどうしたらいいか分からなくなり、窓の外の濡れ縁に出てみると、女が3人来るのが見えました。
1人は片方の足がうちわのようにぺちゃりぺちゃりという音がして、2人目は下唇が大きくて、だらりと顎まで伸びていて、3人目は親指が一本、恐ろしく幅が広いのでした。
この3人の女が窓の外まで来ると、どうしたのかと女の子に尋ねました。
女の子が困っていることを言うと、3人の女は自分たちを結婚式に呼んでくれて、自分のおばさんたちであると言って、御膳へ座らせてくれるなら、麻を片付けてあげると言います。
女の子は、三人の女に頼み、部屋に入れると、1人が糸すじを引き出して車の輪を踏み、2人目は糸すじを湿らせ、3人目は指で承盤を叩きます。
すると、麻糸が束になって出来上がり、見事な仕上がりでした。
女の子は3人の女を隠し、お妃は女の子を褒めました。
その後、麻のつまった2番目、3番目の部屋の糸も紡ぎ終わりました。
3人の女は、約束したことを忘れないよう女の子に話します。
それから婚礼の支度が始まりました。花婿は、こんなに稼ぐお嫁さんをもらうのを嬉しく思いました。
女の子は、自分にはおばが3人いて、親切にしてくれたので、婚礼に呼んで、一緒の御膳についてもらいたいと話し、お妃もお婿様も了承します。
いよいよ始まると、例の3人の女が、奇妙な格好をして入ってきました。
婿様は、ようこそいらっしゃいましたと言いながら、どうしてあなたは、そんな幅広い足をしているのかと聞きます。
すると、「踏むからさ、踏むからさ」。
次に、どうしてだらりと下がった唇をしているのかと聞くと、「なめるからさ、なめるからさ」。
そして、どうしてそんなに平べったい親指をしているのかと聞くと、「糸すじをよるからさ、糸すじをよるからさ」と3人の女は答えました。
それを聞くと王子はびっくりして、それなら私の美しい嫁には、もう糸くり車には触らせないようにすると言い、女の子はこれで嫌な糸紡ぎをしなくてすむようになりました。(要約)
怠け者で、母親の言うことを聞かない娘がハッピーエンドを迎えるという、ここにある教訓は何でしょう。
まずは勤勉であることの大切さを普通は出すのでしょうが、この物語では違うようですね。
母親は、娘が怠け者であることを恥じて、本当のことを言うことができません。
お妃は、勤勉に糸を紡ぐことができれば、貧乏人でも息子の嫁に相応しいと考えています。
一方で3人の女は、体が変形するほど糸を紡いでいて、物語の最後で勤勉さよりも美しさが優先されました。
勤勉は大切ですが、いつまで美しくいてほしいというのが、男性の本質なのかもしれませんが。
でも、やはり人は勤勉な道を選ばなければいけません。
誰しもが心のどこかにある楽しい物語でした。