ふでモグラの気ままな日常

読書をこよなく好む早期退職した元公務員が、読んだ本の紹介を中心に、日頃気づいたことや感じたことなどについて、気ままにひとりごとを発信する雑記ブログ

【読書】グリム童話『いさましいちびっこのしたてやさん』

『完訳グリム童話集(一)金田鬼一訳』その16

『いさましいちびっこのしたてやさん』〈KHM20〉

【あらすじ(要約)】

 夏の朝、ちびの仕立屋さんが一生懸命縫物をしていました。
 そこにお百姓さんのおかみさんがジャムを売りに来たので買いました。
 

 仕立屋さんはパンにジャムを塗りますが、食べる前にこのジャケツを仕上げてしまうことにします。


 そのうちに、ジャムの甘い匂いにハエが誘われて、パンの上に集まってきたので、仕立屋さんはきれでハエを叩きました。布きれを見ると、7匹のハエがんで手足を伸ばしています。自分のいさましさに我ながら感心します。


 仕立屋さんは町中に知らせてやろうと、を一本縫い上げ、それに大きな字で「ひとちで七つ」と刺繡をしました。

 仕立屋さんはそのを巻き付け、出掛ける前に何か持っていけるものを探しましたが、古いチーズが一かけらしかなく、それをポケットに入れました。
 町外れの門の所で、一の鳥が藪の中から出られなくなっているのを見つけ、これもチーズと一緒にポケットに入れました。


 仕立屋さんはいさましく山の頂上まで歩いていくと大男が座っています。一緒に行く気はないかと聞くと、大男は「どこの馬の骨だ。見っともない野郎だ」と言いました。

 仕立屋さんは、大男にあのを見せました。
 大男は「ひとちで七つ」と書いてあるのを読んで、仕立屋さんが討ちしたのは人間だと思い、でも試してやれと、石を一つ手に取って握りしめると、その石から雫がポタポタと落ちました。
 大男は、力があるなら真似してみろと言います

 仕立屋さんはポケットからあの柔らかいチーズを取り出して握りしめると、汁がダラダラと流れ出ました。

 大男は信じられず、今度は石を拾って、見えないくらい高い所まで放り上げました。
 すると、仕立屋さんは、あの石は地面へ落ちてきたけど、「俺のは落ちてこない」と、ポケットからあの鳥を掴み空へ放り上げました。鳥は自由になったのを喜び、二度と戻ってきませんでした。

 

 大男は仕立屋さんを樫の木が倒れている所へ連れていき、力試しに森の外まで一緒に運び出してくれと誘います。
 仕立屋さんは自分が枝のほうを、大男は幹のほうを担ぐように言いました。

 大男は幹を担ぎ上げ、仕立屋さんは澄まして大枝の上に腰掛けました。大男は後ろを振り向くことができないので、大きな木と仕立屋さんまでも一緒に担いでいきました。
 後ろに乗った仕立屋さんはご機嫌で口笛を吹いています。


 大男は疲れて進めなくなり、「木を落とすぞ」と怒鳴ったので、仕立屋さんは飛び降りて木を抱えました。今までずっと抱えていたような顔をして、大男に「大きな図体をして、こんな木一つ担げないのか」と言いました。


 やがて、大男はサクランボの木を掴んで引き下ろし、それを仕立屋さんの手に持たせて、サクランボを食べるように言います。

 でも、大男が手を放すと木は跳ね返り、仕立屋さんも一緒に空へ跳ね飛ばされてしまいました。
 仕立屋さんはケガもせず落ちてくると木を飛び越えただけだ。できるなら真似をしてみろ」と言いました。
 大男は、木を跳び越すことができず、の間に引っ掛かってしまいました。


 大男は「それほどいさましいなら、俺たちの岩屋へ泊まってみろ」と言いました。

 さっきの大男は、仕立屋さんに寝床を決めてやり、ゆっくり寝るように言います。

 でも、ちびの仕立屋さんにはその寝床は大きすぎて、中には潜り込みませんでした。


 真夜中、大男は仕立屋さんが寝込んでいると思い、棒で寝床を殴りつけ、ちびのを止めたつもりでいました。

 でも朝、仕立屋さんが平気な顔でやってきたのを見て、怖くなり逃げて行きました。


 仕立屋さんは、あるに入り込み、草の中で眠り込みます。

 お城の人たちがやってきて、仕立屋さんのに「ひとちで七つ」と書いてあるのを読み、偉い侍に違いないと王様に話します。そして、「もし戦争が始まると、きっと役に立つ人になる」意見を申し上げました。

 

 王様もこの忠告を聞き入れ、仕立屋さん迎え入れ、特別の住まいを与えました。
 でも、他の侍たちは、仕立屋さんが邪魔でなりません。皆は覚悟を決めて、王様にひと打ちで七人も打ち倒すような男とは一緒にはいられないと、お暇乞いをしました。

 王様は、こんな男に目が留まらなければよかったと思いますが、考え抜いた末、うまい考えを思いつきます。
 「あなたの豪傑を見込んで頼みたいことがある。森の中に大男が二人住んでいて、この二人を殺してくれれば、王様の一人娘を妻として、国の半分も持参金としてあげよう。侍を百人つけて助太刀させる」

 仕立屋さんは、ひとちで七つをやっつける男がたかが二人ぐらいの数で、と返事をしました。

 仕立屋さんは出掛けていき、森の外れでお供たちは待っているように言いつけます。
 森の中を見回すと、二人の大男の姿が木の下に眠っています。
 仕立屋さんはポケットに石を詰め込み、その木に登り、大男のの上に石を次々と落とし始めました。
 大男は目を覚まし、仲間を突いて「何で俺を殴るんだ」と言いました。すると、相手の大男は「でも見たか」と答えます


 それから二人がまた寝込み、今度はもう一方の大男に石を落とします。「何で石をぶつけるんだ」と、その大男が怒鳴りましたが、「何もしてない」と最初の大男が答えます。

 

 二人は口喧嘩をしますがまたまた寝込み、仕立屋さんは今度は一番大きい石を最初の大男に力一杯ぶつけました。二人は怒り狂って、木を引き抜き、殴り合いを始め、とうとう二人ともんでしまいました。

 仕立屋さんは地べたに飛び降り、を抜いて、二人の大男のに二度、三度突き刺しました。

 お供の侍たちには「二人とも俺がを止めてきた。ひとちで七つもやっつける俺に向かってはも立たたない。一本折らせなかった」と言いました。
 

 王様は約束を後悔して、どうしたらこの豪傑を追い払えるだろうかと、またまた考えます。

 王様は「森の中の一角獣を生けどりにしてもらいたい」と。
 仕立屋さんは「一角獣の一匹ぐらい、何でもない。ひとちで七つというのが、私の手なみだ」と言って、縄を一本と斧を一丁持って、森に行きました。今度もお供の人たちには、外で待つよう言いつけます


 一角獣が現れると、仕立屋さん目掛けておどりかかりますが、すぐ近くまできた途端、仕立屋さんはひらりとをかわし木の後ろへ回り込むと、一角獣は力一杯木に突進したので、を木のに突き刺してしまい、引き抜く力もなく、そのまま生けどりにされてしまいました。
 

 王様はまだ約束の褒美をやるつもりはありません。三つ目の注文を出します。

 森の中で悪さをするイノシシを捕まえてほしいというものでした。
 仕立屋さんは子ども騙しみたいなものだと、狩人たちを連れて行きませんでした。

 

 イノシシは仕立屋さんの姿を見るなり、牙をむいて飛び掛かってきました。
 それより早く、すばしっこい豪傑は、傍にあった礼拝堂に飛び込んで、すぐまた上のからひと飛びで外へ飛び出しました。
 イノシシは仕立屋さんの後をって中に飛び込みますが、仕立屋さんは外側を飛び回って、イノシシの後ろからを閉めてしまったのです。
 中でイノシシが暴れ回りましたが、体が重過ぎてから飛び出すこともできず、生けどりにされてしまいました

 

 さすがの王様も約束を守らない訳にはいかず、仕立屋さんに自分の娘と国の半分をやりました。

 

 婚礼は皆からはあまり喜ばれもせずに執り行われました。

 しばらくして、若いお妃様は寝言を言っているのを聞きました。
 「小僧、ジャケツをこしらえろ。それからズボンを繕え。やらないと、物差しで横っ面を引っ叩くぞ」
 これを聞いたお妃様は、お父様に「あの人は仕立屋に違いない。あの人から私を救ってほしい」とお願いしました。
 王様は「今夜は寝室を開けておきなさい。家来たちを外に立たせておく。あの男が寝込んだら縛り、に乗せて遠くへ連れて行かせる」と言いました。


 王様の刀持ちがこの話を聞いていて、この企みを若い王様に知らせてしまいます。

 お妃様は、仕立屋さんが寝込んだ頃を見計らって、部屋のを開けます。
 仕立屋さんは眠っているふりをして、怒鳴り出しました。
 「小僧、ジャケツをこしらえろ。それからズボンを繕え。やらないと、物差しで横っ面を引っ叩くぞ。俺様はひとちで七つをやっつけ、大男を二人もし、一角獣を引っ張ってきたこともあるし、イノシシを生けどりしたこともある。その俺様が何で外にいる奴らを怖がるものか」と。
 皆はすっかり怖くなって逃げ出しました。それからは、もうだれ一人仕立屋さんに手向かおうという者はいませんでした。
 こうして、ちびの仕立屋さんは一生王様でいました。

【ひとりごと】

 体が小さいことで一寸法師を少し思い出させますが、勘違いの勇気というか、ハッタリともとれるコメディのような物語ですね。

 知恵を働かせて勇ましいのですが、小者感が窺え笑えます。

 原文では仕立屋さんと周囲の人たちとの温度差の描写が愉快です。

 でも、ポジティブに自己暗示はいいかもしれません。なりたい自分になるためにアファメーションは大切ですね。