【あらすじ&ひとりごと】
中島京子さんの作品は初めてです。直木賞受賞作品の『小さいおうち』のイメージだけで、今まで読んだことはありませんでした。
登場する人物は、それぞれ事情を抱える訳ありですが、味があってとてもユーモア。後味のよい作品でした。
職を失った青年・栗田拓海は、自転車旅行中に雨に降られ、窓の灯りとおいしそうなスープの匂いにひかれ、古びた建物「ムーンライト・イン」を訪ねる。
そこには、かつてペンションであったが今は世代の違う3人の女性がそれぞれ事情を抱えて過ごしていた。
そして一晩限りの雨宿りのつもりが、拓海もしばらく居候することになり、奇妙な共同生活が始まる。
「ムーンライト・イン」の住人たちはそれぞれ訳ありで、少しずつ明かされていくのですが、どれも現代を象徴する問題を織り込んだ物語になっています。
つまずいた人たちがこの「ムーンライト・イン」に身を寄せ、互いが胸に秘めることを打ち明け合ったり、うっすらと気づいていたりと、ユーモアたっぷりに描かれ、個性的な住人がいいスパイスとなって、楽しませてくれます。
そして、いつまでも逃げてばかりはいられないと、それぞれが再生の一歩を踏み出そうとするところに、生きていればいろいろあるけどそれでも人生を続いていくんだという思いにさせてくれます。
人生の岐路に立ったとき、前ばかり見ないで、休止して少しくらい後ろ向いたって、再生するための充電だと思えばいいのかなと思ったりします。