『完訳グリム童話集(一)金田鬼一訳』その6
『奇妙な楽人』〈KHM8〉
【あらすじ&ひとりごと】
昔あるところに奇妙な音楽家がいました。
一人で森の中を通り抜けながら考え事をしていましたが、考える種もなくなりバイオリンを弾き始めると、狼がやってきます。
狼は「バイオリンを習いたい」と言い、音楽家は「わたしの言いつけは何でもやりなさい」と言う。
狼は音楽家についていきますが、しばらく歩くと、柏の老木があり、その空洞の裂け目に両前足を突っ込むよう音楽家は命じます。
そのとおりにした狼の足を音楽家は石で押さえつけてしまい、帰ってくるまで待っているよう言い残し行ってしまいます。
そして、また退屈する音楽家はバイオリンを弾きます。
すると、今度は狐がやってきました。狐もバイオリンを習いたいと言い、音楽家の言いつけに従います。
音楽家についていった狐は、ハシバミの木に吊るされ、音楽家は行ってしまいました。
また音楽家は退屈しバイオリンを弾くと、今度は兎がやってきます。
同じように兎もバイオリンを習いたいと言い、音楽家の言いつけに従います。
兎は首にひもをつけて、ヤマナラシの木のまわりを20回ぐるぐる回り、ひもが木の幹に巻きついて自由がきかなくなりました。
音楽家はまた兎も置き去りにしました。
その間に狼は、やっとのことで木から前足を引っ張り出し、怒り狂って音楽家を追います。
途中で狐と兎を助けてやり、全員で仕返しをしようと後を追います。
またまた音楽家は、途中でバイオリンを弾くと、今度はきこりがやってきます。
音楽家は初めて人間がやってきたことに喜び、楽器を上手におもしろく弾くと、きこりは魔術でもかけられたようにうっとりします。
そのとき、狼と狐、兎が仕返しにやってきますが、きこりがオノを音楽家の前に立てると、狼たちは怖くなり森の中へ逃げ帰ってしまいました。
音楽家はお礼にもう一曲聞かせ、また旅を続けました。(要約)
この内容だけではまさしく動物虐待ですね。
でも、文末の注釈にあったのですが、この物語は完全版として伝えられていないようです。音楽の力で感動させるほどの名人が、動物を騙し懲らしめるなんて。その理由が元の話には語られていたとされています。(説話学者)
安心しました。
『十二人兄弟』〈KHM9〉
【あらすじ&ひとりごと】
昔、王様とお妃がいて、ふたりには子どもが十二人、男の子ばかりでした。
ある日、王様はお妃に、
「13番目の子がもしも女の子だったら、12人の息子たちを死なせて、この王国がその子一人のものになるようにしよう。」と言い、棺を12、錠をかけた部屋に持ち込みました。
お妃は、一日中悲しんでいたので、一番下の子のベンジャミンが、声をかけます。
お妃は、はじめは話しませんでしたが、うるさく言うので12の棺をベンジャミンに見せ、これがのお前たち兄弟の棺であると話します。そして、女の子が産まれると、みんな殺されてしまうことを話します。
ベンジャミンは、自分たち兄弟はどこかへ行って何とかすると言います。
するとお妃は、兄弟で森へ入り、木の上からお城を見張り、男の子が産まれたら白い旗、女の子が産まれたら赤い旗を出すことを話します。
それから子どもたちはお城を出て、森へと入りました。
一人ずつ交代で見張りをしながら、11日がたち、順番がベンジャミンに回ってきたとき、赤い旗が出ているのが見えました。
兄たちは、これを聞くと腹を立て、女の子を見つけしだい、そいつの血を流してやると話しました。
それから、森の真ん中に魔法のかかっている小さな空き家を一軒見つけました。
12人はここに住むことにし、ベンジャミンは留守番し家事を、兄たちは狩りに行きます。こうして10年という年月が過ぎました。
一方、あの日生まれたお姫様は、気立てが良く美しい方で額に黄金の星が一つありました。
あるとき洗濯をするとき、男物の下着が12枚あることに気が付きます。
母に聞くと、12人の兄たちの存在を知らされます。
それからお姫様は兄たちを捜すため森へ入り、魔法のかかっている小さな家に着きます。
中へ入ると男の子が一人います。お姫様は兄たちを捜していると12枚の下着を見せると、ベンジャミンはこの女の子が自分の妹だと気付き喜び合います。
しかし、女の子に出会ったら見つけ次第に殺してやるという約束があるため、お姫様を家の中の樽の下に隠すことにしました。
夜になり、兄たちが狩りから帰ってきて、ご飯を食べているとき、ベンジャミンは女の子を殺すのをやめるよう兄たちに約束させ、妹を樽の下から出します。
すると兄様たちは喜び、それから妹との生活が始まりました。
あるとき、この魔法の家には小さな庭があり、百合のような草花が12本生えていました。
お姫様は兄たちにあげたくて、その花を12本とも折ります。
するとその花を折ったとたんに、兄たちは12羽の鴉にばけて、どこかへ飛んで行ってしまい、その家も消えてしまいました。
お姫様は独りぼっちになってしまい、あたりを見回すとおばあさんが立っています。
おばあさんは、あの12本の白い花をなぜあのままにしておかなかったのか。あれは兄たちだったと言う。
お姫様は兄たちを救い出す方法を聞くと、七年間、口をきいてはいけないし、笑ってもいけないとおばあさんから言われます。
もしたった一言でも口を聞いたら水の泡になるばかりか、兄たちは殺されてしまうという。
お姫様は決心し、高い木の枝に腰かけて口も聞かず、笑いもしませんでした。
ある日、この森で狩りをするどこかの王様が木の上にいる美しいお姫様を見つけ、自分の連れ合いになる気はないかと声をかけました。
王女は返事をしませんでしたが、少しうなずきました。
王様はお姫様を連れ帰り、婚礼の式をあげますが、花嫁は口をきかず、笑いもしません。
王様とお妃は楽しく暮らしましたが、王様の母親は腹黒い女で、お妃は身分のいやしいこじき娘で、笑わないなんて心のやましい人間だと言いふらし、王様はとうとう言い負かされ、お妃を死刑にすることになります。
お妃が柱に縛り付けられ、火が包みだしたとき、ちょうど7年の年月が過ぎました。
そうすると、12羽の鴉が飛んできて、地面に降り立ち、お妃の12人の兄たちになっていました。
兄たちは火を消し、妹の体を自由にして抱き合いました。
それからお妃は今まで口を聞かなく、笑わなかった訳を王様に話し、お妃に何の罪もないことを知って喜びました。
それからはみんな一緒で、死ぬまで仲良く暮らしました。(要約)
王様は息子たちを生贄にしてまでも女の子がほしかったのでしょうか。感情的には、また男の子(女の子)だとがっかりしながらも、新たな命の誕生に喜びを感じるのが普通ですけどね。
ひとつ気になるのが、母親には息子に対する愛情が記述されていますが、父親には一切ないこと。やはり母の愛は強いのですね。