ふでモグラの気ままな日常

読書をこよなく好む早期退職した元公務員が、読んだ本の紹介を中心に、日頃気づいたことや感じたことなどについて、気ままにひとりごとを発信する雑記ブログ

【読書】グリム童話『七羽のからす』

『完訳グリム童話集(一)金田鬼一訳』その22

『七羽のからす』<KHM25>

【あらすじ(要約)】

 昔、ある男に息子が七人いましたが、娘は一人もいないため、娘をとても欲しがっていました。
 そのうちに、おかみさんに子どもが生まれると待ちに待っていた女の子でした。
 男はとても喜びました。けれども、子どもは小さく、痩せこけて体が弱いため、すぐに洗礼を受けさせなければなりませんでした。


 父親は、男の子の一人を泉にやって、洗礼の水を持って来させようとしました。

 すると、他の子どもたちも一緒にかけていき、競争で水を汲もうとしたので、壺が泉の中に落ちてしまいました。


 皆どうしていいかわからず、帰ろうとしませんでした。
 父親は、いつまでも帰ってこないので、いらいらして、「また遊びに夢中になって、用事を忘れてしまったんだな」と言いました。


 ぐずぐずしていると、女の子が洗礼を受けないうちに死んでしまわないかと心配になり腹を立て、「小僧ども皆、カラスになれ」と怒鳴りました。
 すると、バタバタと羽の音が聞こえてきました。空を眺めると、真っ黒なカラスが飛び去って行きます。


 父親と母親は、さっきの呪いの言葉をもう取り消すことはできません。二人は七人の息子をなくし、とても悲しみました。

 でも、可愛い女の子を授かりましたので、いくらかは慰められました。


 女の子は力もつき、一日ごとに美しくなりました。
 女の子は、兄たちがいたことを長い間知りませんでした。父親も母親も兄たちのことを話さないように気をつけていたからです。
 でも、ある日、皆がこの子の噂をして、「あの子は美しいけど、七人の兄たちがあんなことになったのは、もとはと言えば、あの子のせいだ」と言っているのを耳にしました。


 女の子は悲しくなりました。そして、父親と母親に兄たちはどこへ行ってしまったのかと訊ねました。

 父親と母親は、もうこれ以上秘密にしておく訳にはいかず、「兄たちがそうなったのは、神様がお決めになったことで、おまえが生まれてきたためではない」と言いました。
 けれども、女の子は毎日そのことばかり気にして、何とかして兄たちを助け出して、もう一度元の姿にしてあげなければと思っていました。


 女の子は、もうじっとしていられなくなり、こっそり家を抜け出し、広い世の中へ踏み出しました。

 兄たちを見つけ出し、たとえ自分がどんな目にあっても、兄たちの呪いを解いてあげるつもりでいました。


 女の子は、父親と母親の思い出に小さな指輪と、パンをひとかたまり、小さい壺に水を一杯、それに、疲れたときのために椅子を一つしか持って行きませんでした。


 女の子はどこまでも歩き、とうとう世界の果てまで来てしまいました。
 そこで、お日様のところへ行きますが、お日様はとても熱く、怖くて、小さな子どもをむしゃむしゃ食べていました。
 女の子は急いで逃げ出し、お月様のところへかけつけました。

 ところが、お月様は冷た過ぎて、身の毛のよだつほど恐ろしく、また意地悪で、娘に気が付くと、「人間の肉臭いぞ」と言いました。

 これを聞くと、女の子は素早く逃げ出し、お星様たちのところへ行きました。

 お星様たちは親切にしてくれました。そして、めいめいが特別の椅子に腰掛けていました。明けの明星が椅子から立ち上がって、女の子にひよこの足を一本渡して、「この足を持っていないと、ガラス山が開けられない。ガラス山の中にはおまえの兄たちがいるのだからね」と言いました。


 女の子はその足を受け取り、大切に布に包み、またどこまでも歩いていくうちにガラス山にたどりつきました。

 門には鍵がかかっていました。そこで、女の子はひよこの足を出そうと思って包みを開けると中は空っぽです。

 親切なお星様たちからもらったものをなくしてしまったのでした。兄たちを救い出したくてもガラス山の鍵がありません。
 小さい妹は、小刀を取り出して、自分の可愛らしい小指を切り落とすと、それを門の鍵穴に差し込み、扉を開けました。

 

 中に入ると、豆のような一寸法師がやってきて、「嬢ちゃん、何をさがしているの」と声をかけました。「七羽のカラスになった、兄たちをさがしている」と女の子は答えました。
「カラスさんたちはお留守ですよ。でも帰ってくるまで待つなら、こっちへお入り」と言って、一寸法師はカラスたちの食べ物を七つの小皿に盛り、七つのかわいい盃に入れて持ってきました。

 妹は七つの小皿からパンをひとかけらずつ食べ、七つの盃からひとすすりずつ飲んで、一番おしまいの盃の中に、うちから持ってきた小さい指輪を落としました。


 そのとき、羽音とカアカアという悲しげな鳴き声が空中に聞こえました。

 すると、「カラスさんたちが帰ってきた」と一寸法師が言いました。

 そこへカラスたちが入ってきて、飲み食いをしようと思って、小皿や盃を探しました。

 すると、「誰がぼくの小皿のものを食べたんだい。誰がぼくの盃で飲んだんだい。こいつは人間の口だぞ」と、がやがや言い出しました。


 そのうちに、七番目のカラスが盃を飲みほしたとき、小さな指輪が転がり出ました。

 よく見ると、それは見覚えのある父親と母親の指輪だったので、「妹が来ているといいなあ。そうすりゃ、みんな助けてもらえるんだけど」と口にしました。


 扉の後ろで立ち聞きしていた娘は、この願い事が耳に入るとその場へ出てきました。
 すると、カラスたちは一羽残らず人間の姿に戻りました。それから皆、かたく抱き合ってキスし、生まれ故郷へ帰って行きました。

 

【ひとりごと】

 父親の発した言葉で大変なことになってしまいましたね。

 昔はよく、言うことを聞かない子に「よその子になれ」とか、「おまえみたいな子は◯◯になれ」などの親の叱る言葉を聞いたものですが。(今でもあるのかな)

 やはり子どもの心に深く残る軽率な言葉はいけませんね。

 口は災いの元です。

 

 そして、恐ろしいところがいくつかありました。

 お日様とお月様。童話では温かい父親、やさしい母親のイメージですが、ここでは怖い存在でした。

 お星様は味方でしたが、「ひよこの足」をくれます。何ともエグいですね。

 さらに、さらっと描いていますが、女の子がお星様からもらったひよこの足を失くしてしまい、代わりに自分の小指を切り落とし、鍵穴に差し込む場面はゾッとしました。

 切り落とさずにそのまま差し込めばいいのになあと。

 

 言葉の暴力、気を付けなければいけませんね。思ったことをすぐに口にせず、一呼吸置いてから話すよう心掛けたいものです。

岩波文庫(1979)